男性は結婚できると中流意識が持てる――三浦 展(カルチャースタディーズ研究所代表取締役)【佐藤優の頂上対決】

ビジネス 週刊新潮 2021年2月18日号掲載

  • ブックマーク

 年収400万円台でも「中の上」という階層意識を持つ若者たちが増えている。長期にわたるデフレの影響や中古市場の拡大によって、購買可能なものが多くなったためで、「デフレ中流」」とでも言うべき世代だ。そんな彼らの嵩上げされた中流意識を支えるものがもう一つある。結婚である。

 ***

佐藤 三浦先生が2005年に出版された『下流社会』は、画期的な一冊でした。まだ中流幻想が残っていた日本社会に、はっきりと下流社会の現実を突きつけた。あれから15年が経ち、三浦先生は、中流が解体しつつあると指摘されていますね。

三浦 日頃、消費行動などの調査集計業務をしていると、階層意識の「中の中」は全体の真ん中より上に位置していて、その「中の中」と「中の上」の差が減り、逆に「中の中」と「中の下」の間に大きな隔たりがあると思うことがしばしばです。

佐藤 中流が上下に二極化しているということですね。

三浦 ええ。だから「中の中」以上は実質、上流の範疇で、「中の下」以下は下流になります。

佐藤 私はいくつかの大学で教えていますが、学生たちは「中の下」という言葉に過敏に反応しますね。何かの拍子に「それは『中の下』という感じがあるな」と言うと、その瞬間にピリピリと電気が走ったような雰囲気になる。特に女子学生がそうです。「中の下」に落ちていくことに対する形而上学的な恐怖があるんですね。

三浦 教えられているのは、どちらの大学ですか。

佐藤 同志社大学と同志社女子大学、そして沖縄の名桜大学です。

三浦 優秀な人が多そうですね。実は内閣府の国民生活世論調査でも三菱総合研究所の生活者市場予測システムの調査でも、近年は「中の下」の意識は減り、「中の上」が増えています。それは若い世代ほど強く出ている。

佐藤 大学生ですから「中の上」くらいの意識はある。下流や「下の上」と言っても、リアリティがありませんが、中流という大枠の中で、その下層に落ちていくことは現実的に起きうる。その恐怖が特に女子学生たちに共有されているようです。

三浦 そうした恐怖も合わせて考えると、調査で「中の上」が増えているのは、アンケートに「中の下」とは書きたくないということかもしれませんね。年収で見ると、いまは400万円台の25~34歳では「中の上」意識を持つ人が2012年の12%から2020年は19%に増えたんです。

佐藤 商品がほぼすべて100円のローソン100に通えば、1カ月1万円程度で食べていけます。年収が400万円あれば、スイーツだって毎日食べられる。

三浦 またスマホでゲームも映画もテレビも音楽も視聴できることが、下流の人々の満足度を上げているようです。

佐藤 メルカリなどフリマでも、さまざまなものが安く買えますし。

三浦 中古市場の拡大とデフレの影響も大きいですね。消費税は5%から10%に増えたので、消費支出は増えないのに買えるものが増えた。いわば「デフレ中流」あるいは「偽装中流」という気がします。

佐藤 客観的には「中の下」でも「中の上」くらいまで嵩上げされているわけですね。下流でも中流の意識を持つ人も多いでしょう。

三浦 階層意識は相対的なものですからね。

佐藤 昨年出た三浦先生の『コロナが加速する格差消費』では、公務員の夫婦だと9割が「上流国民」だとありました。これは私の皮膚感覚と合致します。

三浦 公務員は平均より高い学歴を持っていますから。

佐藤 いま、国家公務員の総合職なら生涯所得は3億8千万円くらいだと思います。サラリーマンの平均は2億円強ですから、かなりの高収入です。夫婦なら7億6千万円ですよ。

三浦 もうトップ企業じゃないと争えないレベルです。県庁職員にしても、その県のトップ企業じゃないと比肩できない。

佐藤 県庁職員なら国家公務員総合職より1億円弱少ないくらいですから生涯に3億円、夫婦で6億円です。

三浦 最近、経産省や都庁の方と会うと、みんなおしゃれなんですよ。民間の人よりずっといいスーツを着ています。

佐藤 もっとも正規の公務員の数は減っています。地方の公務員はかつての半分くらいになっている。私たちが窓口で会う人のほとんどは、公務員試験に合格して職員になった人ではない。

三浦 それは銀行も同じですね。支店に正社員は少なく、ほとんどが契約社員、パート社員になっている。

安倍前政権の支持層

佐藤 そうした人たちがみんな忠誠心を持って仕事をしているところが、日本の特別なところです。

三浦 国が国民の生真面目さにつけ込んでいるとも言えますね。それが格差を放置することに繋がります。

佐藤 就職にあたって、最初に非正規雇用で入ってしまうと、そこから上昇することがほんとうに難しい。いまの企業の勤務体系だと、最初の5年くらいは同じように働きますから、違いが見えにくい。多様な働き方があるからと、入り口で契約社員でもいいやと考えたら、取り返しのつかないことになります。

三浦 そうして格差が広がってきたわけですが、暴動は起きないですね。

佐藤 下流でも中流意識を持つような状態は、為政者にとっては非常に好都合です。支持政党などについても調査されているのですか。

三浦 前の安倍政権については支持者の属性などを調べている途中です。安倍政権の支持層は、基本的に正社員で年収も学歴も高い中流以上の人たちです。逆に評価しない人たちは、年収も学歴も低く、非正規が多い。ただし安倍政権が一番嫌いな人たちの層では、学歴が高まります。高学歴でも非正規だったり女性だったりで、女性はレベルの高い大学を出ても、男性並みにはいい職業につけなかった人たちが多い。

佐藤 そこがもっとも安倍政権に批判的な層ですね。

三浦 さらに大学院卒の女性は安倍政権が嫌いな人が多いし、人文系の本を読む人もそうです。菅政権になってから、日本学術会議の任命拒否問題があったでしょう。そこに東大の加藤陽子教授が入っていたのは象徴的なことです。女性、大学院、人文系と安倍嫌いの要素が揃っている。

佐藤 一方、安倍政権がものすごく好きで、収入が高くない人もいますよね。

三浦 いますね。それは世代的に見ると、特にバブル世代の男性なんです。有名私立大卒のセレブである安倍夫妻は、バブル世代の憧れなのでしょう。

佐藤 なるほど。ただ安倍さん自身は少し上です。

三浦 安倍さんは1985年に31歳ですが、まあ、まだ若いですね。昭恵夫人は完全にバブル世代。私には、忘れられない光景があります。小泉政権で官房長官だった安倍さんが、クリスマスの飾りを買いに、渋谷の東急ハンズに行ったんです。政治家が銀座や日本橋でなく、そして正月の飾りやおせちでもなく、ハンズでクリスマスです。安倍夫妻はお坊ちゃん学校の成蹊とお嬢さま学校の聖心の出身だし、バブル世代の象徴的存在なのだと思いますね。

佐藤 その層は活動的ですし、そこそこ人数もいます。

三浦 また、安倍なんか信じているのは、本も読まないバカだ、みたいなことを言う人がいますが、それは嘘です。彼らは読書量がとても多い。安倍不支持の人のほうが読書量はずっと少ない。だから安倍支持かどうかは、結局根本的な価値観というか、好きか嫌いかの違いによっているようにも思えます。そうなると立憲民主党などがどんなに批判しても、なかなか逆転は厳しそうです。

佐藤 菅政権はどうですか。基本的には変わりませんか。

三浦 まだデータはありませんが、とりあえず安倍政権を継承しているので根本は変わらないでしょう。ただ安倍さんの場合、無党派層での支持が多かった。一方、菅さんの場合は、このままだと無党派層の支持は弱いんじゃないでしょうか。コロナ対策次第ですがね。

次ページ:シュリンクする社会

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]