バイデンに脅されて韓国が選ぶ核武装中立 日本にも突き付けられる新たな踏み絵

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「新朝鮮」の核は日本を向く

――楊相勲主筆が引用した論文ですね。

鈴置:『WEDGE Infinity』に載った「Nuclear North Korea and Japan-The INF Option」(2020年11月25日)です。「核保有国の北朝鮮と日本――INFオプション」(2020年11月27日)というタイトルで日本語版も出ています。

 筆者のR・ローレス(Richard Lawless)元国防副次官は朝鮮半島・日本を専門とする戦略家。朴正煕(パク・チョンヒ)時代から韓国で活動してきた超ベテランです。メディアにほとんど登場しなかったため、さほど有名な人ではありませんが、米国でも日本でも隠然たる影響力を持っています。

 そのローレス氏が「長期的には南北が一体化し、米韓同盟は解体に向かう可能性が高い」と断じたうえ、「『新朝鮮』は韓国の産業力と技術力を使って北朝鮮の核兵器を高度化し、それを日本に向ける」と予想したのです。

 さらに注目すべきは、「米国は日本にINF(中距離核戦力)を配備し、日本にもその引き金に関与する権利を与えよ」と主張したことです。

 「日本に核を向ける新朝鮮」と「軍事力増強を続ける中国」に日本が対抗するには、NATO式の米国との「核の二重鍵体制」を作るしかない、というのがローレス氏の論拠です。

 楊相勲主筆は「核共有」と表現しましたが、あくまで核弾頭は米国に所属します。ただ、その使用の可否は日米の合意に委ねる仕組みです。「二重鍵方式(dual key control mechanism)」と呼ばれるゆえんです。

「二重鍵」を日本に渡す理由

――なぜ、「二重鍵」を日本に持たせる必要があるのでしょうか。

鈴置:「米国の核の傘」――専門用語でいう「拡大抑止」への信頼性を増すためです。米国の同盟国は日本に限らず、常に不安を抱えている。「米国が自国の都市を核攻撃されるリスクを冒してまで、敵対国の核攻撃から守ってくれるのか」との疑いです。

 敵対国はその不安感につけ込んで同盟に亀裂を入れ、米国の同盟国を引き寄せようとします。日本の親中派が「いざとなれば日本を見捨てる米国など信用できない」と唱えるのもその一環です。

 それなら、日本にも米国の核ミサイルの引き金に関与する権利を与え、日本の対米信頼感を増せばよい。敵対国の誤解も減らして挑発を抑え込める――との発想です。米国から見れば、核の傘への不安を減じた日本が中立を宣言したり中国側に寝返る可能性を減らせる。要は、多面的な同盟強化です。

――引き金だけとは言え、日本が核を持つとは……。

鈴置:日本人は驚くでしょうが、「二重鍵方式」の主張が今後、高まる可能性があります。先ほど申し上げたように、同盟を強固にするには、日米双方の信頼感を一段と高める必要があるからです。

 楊相勲主筆が引用したC・ヘーゲル(Chuck Hagel)元国防長官らの報告書「Preventing Nuclear Proliferation and Reassuring America’s Allies」(2月10日)。

 「米国は核企画グループを作り、日本などを米国の核戦力に関する政策論議に参加させよ」と提言しています。「二重鍵」という単語は使っていませんが、「特定の核政策についてのプラットフォームを提供すべきである」とありますから、「引き金への関与」を指しているのは明らかです。

・The United States should create an Asian Nuclear Planning Group, bringing Australia, Japan, and South Korea into the US nuclear planning processes and providing a platform for these allies to discuss specific policies associated with US nuclear forces.

日本人は聞こえないフリ?

 韓国の保守は米国から核武装を認められないなら、せめて米国が核兵器を韓国に再配備し、その「二重鍵」を与えてくれないだろうか、と願っていた。楊相勲主筆にとってショックだったのは、「二重鍵」が日本だけに渡される可能性が出てきたからでもあります。

 もっとも、核アレルギーの強い日本では「二重鍵」は有難迷惑と感じる人が多いでしょう。ローレス論文やヘーゲル報告書は日本で話題にもならない。「聞きたくない話だから、日本人は聞こえていないフリをしている」と見る安保専門家もいます。

 日本には「韓国が米国から排除された」と喝采を叫ぶ向きがあります。でも、日本だって「二重鍵方式」を拒否すれば、米国から「2線級の同盟国」と見なされかねません。それは「中立化しない」「中国側に行かない」強力な歯止めと見なされるからです。

 韓国人があまりにも「のほほん」としていることに危機感を抱いた楊相勲主筆は「驚くべき話が出回っている」と警告しました。

 日本にとっても韓国とは別の意味で、驚くべき話が出回っている。そして日本人も「のほほん」としているのは同じなのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮取材班編集

2021年2月22日掲載

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