“ペンギン投法”の元ヤクルト安田猛さんが死去 田淵幸一との深すぎる因縁とは

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“小さな大投手”

 なおも2死二塁で迎える打者は、皮肉にも最も警戒しなければいけない田淵だった。直後、ベンチから出てきた三原脩監督が言った。

「やっさんよ。記録を作ったんだから、もういいだろう。敬遠しろや」

 一打サヨナラの場面で一塁が空いているとなれば、ここは個人の記録よりもチームが負けないことを優先するしかない。仕方なく「はい」と頷いた安田さんは田淵を敬遠し、この瞬間、連続イニング無四死球の記録はストップした。

 ちなみに、この記録がスタートしたのは、くしくも7月17日の阪神戦の田淵敬遠の直後から。田淵敬遠に始まり、田淵で日本記録を更新し、田淵敬遠で終わるという、何とも因縁めいためぐり合わせだった。

 記録が途切れた安田さんは「ガッカリしたつもりはなかった」そうだが、ピーンと張りつめていた気持ちが緩んでしまった感は否めなかった。

 2死一、二塁で次打者・池田に初球カーブを右越えにサヨナラ3ランされ、完封勝利目前から逆転サヨナラ負け。まさかの暗転劇に、「勝負を急ぎ過ぎたのが……」と悔やんだ安田さんだったが、この日達成した日本記録は、現在も歴代トップである。同年は、この快挙に加え、自身初の二桁勝利を達成し、2年連続の最優秀防御率も獲得している。

 王、田淵の二大アーチストが本塁打王を争っていた時代のセ・リーグに、打者の打ち気をそらす痛快な投球術で存在感を示した“小さな大投手”がいたことは、今も多くのファンの脳裏に刻まれていることだろう。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年2月22日掲載

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