特措法、感染症法の罰則規定はなぜ問題か 雑な法改正に専門家が警鐘

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検査でなくワクチン接種にマンパワーを

 現在、「特措法」(新型インフルエンザ等対策特別措置法)と「感染症法」(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)の改正案が国会で審議されている。専門家が指摘する「問題」とは――。

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 緊急事態宣言は3月7日までの延長が決定し、立憲民主党や一部のメディアは「コロナの根絶」を求めているが、これまで400人を超えるコロナ患者を診てきた浜松医療センター院長補佐の矢野邦夫医師は言う。

「ゼロコロナは間違っていると思います。ゼロにできるはずがなく、めざしてはいけません。2003年に流行したSARSはゼロにできましたが、SARSと違い、無症状者がウイルスをばらまく今回のコロナで、ゼロはありえないと考えます。大規模なPCR検査も、陰性でも翌日には陽性になるかもしれず、毎日やらなければならなくなります。また、感染直後は陰性になるので、陰性の人が油断してマスクをしなくなるほうが危険でしょう。全員に検査するお金とマンパワーがあるなら、ワクチン接種に割いてほしい。検査を増やせば病院の負担が増え、医療がさらに逼迫します」

 東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木秀明氏が補って言う。

「検査で陽性と判定されたら、どうなると思いますか。陽性になればすぐに2週間隔離され、家族や職場の人が濃厚接触者として洗い出されて調べられ、みんなに恨まれる。それでも調べるか、と考えなければいけない状況に、日本はなってしまっています」

経済への影響は

 ゼロコロナの経済への影響となると、考えるだけでも恐ろしい。第一生命経済研究所の首席エコノミスト、永濱利廣氏は、

「2月7日までの緊急事態宣言で最大1・8兆円、延長により1・7兆円が加わり、計3・6兆円の個人消費が減る計算です。失業者数は2月までの8・1万人に、新たに7・8万人が上乗せされ、半年後に15・9万人の失業者が発生する可能性があります」

 と予想する。ゼロコロナへの意見を求めると、

「ゼロコロナでなくとも、昨年4~5月の緊急事態宣言で、個人消費は前年比8・3兆円も減りました。ゼロをめざしてロックダウンすれば、それ以上のダメージでしょう」

 また、野村総研の試算では、今回の延長をふくめた緊急事態宣言で、5・8兆円の個人消費が失われ、失業者が22・9万人増え、失業率は0・3%上昇するという。いずれにせよ尋常ならざる数字である。

罰則適用に法的合理性がない

 先月27日の参議院予算委員会では、立憲民主党の蓮舫代表代行が、29人のコロナ感染者が自宅や宿泊療養中に死亡したことで、「この29人の命、どれだけ無念だったでしょうか。その重みがわかりますか」と、菅義偉総理を追及した。

 だが、「ゼロコロナ」というあおり文句で、職を奪われ、生き甲斐を失うであろう人たちの無念さが想像できないのだろうか。野党が追及すべきことは、ほかにもたくさんあるはずである。医師でもある東京大学大学院法学政治学研究科の米村滋人教授が言う。

「特措法と感染症法の改正について、私も2日の参院内閣委員会に参考人として出席し、発言しました。患者を受け入れない医療機関への勧告、宿泊や自宅療養者に関する規定など、必要な改正もありますが、感染対策に逆行するものもあります。特に問題は、時短等に応じない飲食店への罰則規定が、感染拡大の危険性が高い飲食店に限定されていないことです。専門用語で“法益侵害またはその危険”と言い、罰則を科すからには、その行為に実害を及ぼす危険性がなければなりません」

 どういうことか。

「感染リスクは店の構造や設備の違いによって変わります。感染拡大の最大の原因が飛沫であるなら、複数名が距離をとらず、マスクを外して大声で会話するような店は、感染の危険性が高い。一方、客同士の距離がある程度保たれ、大騒ぎせず、換気もしっかり行われている店は、感染拡大の可能性は低い。30分に1度、店内の空気をすべて入れ替えられるような店では、感染リスクをかなり抑えられます。営業すること自体に高い危険性がある店に対してでなければ、罰則適用に法的合理性がありません」

分科会の問題点

 どうして、そんな雑な法改正が行われるのか。

「分科会が有効な策を打ち出せていないのが問題だと思います。人の移動や飲食店が危ない、という単純な思い込みで動いてしまっているから、経済もままならず、国民がしわ寄せを受けている。分科会は、本当に感染を広げている場を早く特定してほしい。そこが感染対策のスタート地点になるはずです。飲食店を十把一からげに規制して効果が得られるのは、緊急事態宣言下だけ。なにが感染を広げているのか、正しく国民に伝えることのほうが、緊急事態宣言よりよほど有効だと思います」

 政府と分科会の対策のずさんさを見逃さず、対策の方向性を糺(ただ)してこそ、野党の存在感も増すというもの。現実を見ずに空論を唱えるなら、衆愚政治以外のなにものでもあるまい。

週刊新潮 2021年2月18日号掲載

特集「『市中感染をゼロにする』『無症状あぶり出しで隔離』テレ朝『玉川徹』立民『枝野代表』がたわ言」より

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