玉川徹が提唱する非現実的な「ゼロコロナ」を検証 専門家は「夢のまた夢」

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緊急事態宣言の延長は妥当だったか

 緊急事態宣言は3月7日までの延長が決定し、立憲民主党や一部のメディアは「コロナの根絶」を求める。が、中国の武漢封鎖のように強権的な対応を取ることができない日本において、「ゼロコロナ」を目指すことは果たして現実的なのか――。

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 東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授は、緊急事態宣言の延長は「妥当だと思う」と語るが、なぜか。

「1都3県の新規感染者数が1日2千人を超えた先月中旬は、入院先や療養先が決まらない患者さんが6千~7千人に及びました。現在こうした調整待ちの方は1500~2500人だと思います。感染者数が減りつつあるいまも、まだ医療現場の負担が軽減されていないのは、1月中旬に調整待ちだった方が、入院できるようになり、また重症者や高齢者の入院が長びいているためではないか。そう考えると、性急に宣言を解除すれば、医療現場の負担がいっそう大きくなる。東京などの大都市では、まだ病床占有率が5割を超えていますが、そこを20%程度のステージ2相当に抑えるべきでしょう」

 だが、感染者数や死者数が日本の20~40倍というイギリスでも、医療は持ちこたえている。日本は人口当たりの病床数が世界一。感染者が少ない時期に医療体制を整えていれば、病床占有率は高くならなかったはずである。医師でもある東京大学大学院法学政治学研究科の米村滋人教授も、

「政府がコロナ対策を緊急事態宣言だけに頼り、ほかになにもしていない以上、宣言の延長もやむなし」

 と話すが、むろん痛烈な皮肉が込められている。

「もちろんマイナスの影響は大きく、飲食店は満足に営業できず、1日6万円の協力金では、それぞれの店に見合う十分な補償ができているとは思えません。実際、老舗料亭が廃業を余儀なくされるようなケースが出ていて、そういう事例はさらに増えると懸念されます。非正規労働者が、雇用の調整弁として使われる恐れもあり、高齢者のコロナフレイル(虚弱)や認知症も進行するでしょう」

「生き甲斐を奪われている」

 実際、飲食店関係者の心は折れつつある。都内南部のショットバーの店主は、

「現在、16~20時の時短営業中です。13日の改正特措法の施行で、30万円の罰金が科せられてはたまりませんから、時短営業を続けますが、協力金が出ればいいという問題ではありません。会社員が自分の生活の軸として仕事をお持ちなのと同様、僕らにはこの仕事が生業なので、生き甲斐が奪われているのと同じです」

 と肩を落とす。一方、同じ地域の居酒屋の店主は、

「まだ時短営業に応じていません。この仕事が好きだから、という以上に、バイトの子たちの収入に関わるからです。改正特措法施行後については迷っています。バイトの子たちの生活にも関わるので」

 そこでアルバイト勤務の20代の若者に尋ねると、

「コンビで芸人をしていますが、緊急事態宣言が出て舞台が全然できず、動画投稿で収入を補おうにも、会っての撮影が難しく、リモートで撮った動画では視聴回数が増えない。だからバイトのシフトを増やしていますが、今後店が時短営業になったら死活問題。一律の協力金ではなく、事業規模や従業員の収入も考えた補償をしてほしいです」

 政府が医療体制の拡充をサボっていたために、緊急事態宣言を出すハメになり、さらに延長までする。その結果、生活できない人、生き甲斐が失われる人が続出する。こういうときこそ野党の出番であろう。

「ゼロを目指すべき」

 ところが、である。枝野幸男代表率いる野党第1党の立憲民主党が、「政権担当能力を示す」ために打ち出したのは、市中感染ゼロをめざす「ゼロコロナ」戦略だった。2月4日からの衆議院予算委員会で、先頭を切って質問した枝野代表があらためて提唱したそれは、ザッとこんな戦略である。

 感染拡大の防止と経済活動の両立は「明確に失敗した」と判断。市中感染の徹底的な封じ込め、経済活動の再開はその後のこととする。また、海外からの入国は厳格に制限し、大規模な検査で無症状をふくめた感染者をあぶり出し、完治するまで隔離する――。加えれば、その間、十分な補償を行うという。

 立憲民主党と不思議なほど同じ主張をするのが、テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」のコメンテーターで同局の玉川徹氏。新型コロナに対する視聴者の不安を、一貫してあおり続けている。たとえば2月1日の放送では、

「(感染者を)なるべくゼロに持っていけば次の山は遠いというのは、理論的にも事象的にも明らかなことだと思います。なので(東京都の新型コロナ感染症医療アドバイザーの)大曲(貴夫)先生が、“1日100人未満にする”と言うのは、本当に大事なことだと思う。100人未満どころか、やっぱりゼロをめざすべきだと、僕は思いますね」

 MCの羽鳥が「(ゼロは)難しいと思いますけど」と意見をはさむと、

「難しいって言っちゃったらできないんで、ほかの国でもやっていることなので、難しいと言っちゃダメだと思います。……もっと検査を拡大して、無症状者を見つけて保護する。無症状者からの感染を減らすことが、僕はアクセルを踏むことにつながると思うんです」

 立民のアドバイザーか、と思うほど同じ主張である。

中国と同じことができるのか

 東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏が意見する。

「ゼロコロナに近いことをしたのが中国で、現在、国内の感染者は少ないので成功したといえます。しかし、そのために76日間、武漢を完全封鎖し、全員を家に閉じ込め、1日1回の買い物くらいしか行動を許さず、企業活動は全部止めた。また、市民のほぼ全員にPCR検査を行い、緊急に専門病院を作り、陽性者はすべて隔離した。日本には武漢の10倍以上人がいます。3~4カ月完全封鎖すればゼロに近づけられるでしょう。しかし、中国はそれを政府の選択でできますが、日本では選択するのは国民です。中国の実例を見て、野党の先生方が同じことをやりたいと思っても、それを国民が望むでしょうか」

 たとえば朝日新聞の世論調査では、緊急事態宣言について「遅すぎた」と「適切だ」を合わせると、96%が支持した。政府のコロナ対応を「評価しない」人も63%で、ほかの世論調査も概ね同様の結果が出ているが、だからといって、国民の多くがゼロコロナを希求しているわけではあるまい。唐木氏が続ける。

「2回の緊急事態宣言でこれだけの不満が出るのだから、日本人は耐えられないでしょう。それに、すべての活動を停止し、人々を家に閉じ込めたら、DVがひどくなり、自殺が増加する。経済も、国が面倒みるから、という中国のようなわけにはいかない。こうして実例を出して考えれば、ゼロコロナは夢のまた夢と、政治家の偉い先生ならすぐわかりそうなのに、なぜそんなことをおっしゃるのか。また、国民がコロナに厳しい措置を求めるのは、専門家が主導する新聞やテレビの報道に踊らされ、実態以上に怖がっているからで、いざ緊急事態宣言で自由が制限されると、とたんに不満が出てくる。理想論と現実論は違います。感染者ゼロなどという対策はやめ、死亡者を極力減らす方向に政策転換しなければいけません。亡くなるのは高齢者や基礎疾患がある人が多いこと、病院や高齢者施設の集団感染で亡くなる人が半数以上を占めること、がわかっています。そこを徹底的に守れば、死亡者数はかなり減らせるはずです」

 玉川氏らのあおりに惑わされた国民感情に寄り添って、野党がゼロコロナを打ち出しているなら、冗談にしても寒すぎる。

週刊新潮 2021年2月18日号掲載

特集「『市中感染をゼロにする』『無症状あぶり出しで隔離』テレ朝『玉川徹』立民『枝野代表』がたわ言」より

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