「医療崩壊は回避できる!」「神の手」外科医が訴える「医療オールジャパン体制の構築を」

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「アメリカですら医療崩壊していない」

「東京都内で新型コロナのために用意されている一般病床4千に対し、三千数百が埋まっていて、病床使用率は9割だ、といわれたら焦ります。ICUベッドも250床のうち、129(1月10日現在)が埋まり、5割を超えています。しかし、私は昨年5月から、感染者が減った夏から秋にかけて医療体制を強化すれば、医療崩壊の閾値はいかようにも変わる、と主張してきました。

 実は、東京都にはICUとHCU(準集中治療管理室)を合わせて2045床ある。250分の129という数字を語る際、少なくともハードウェアのキャパシティがこれだけあることを知る権利が、国民にはあります。東京都が手挙げ方式で号令をかけ、慈恵医大は『8床提供します』と応じた。250とはこうして集まった数字にすぎません。東京都だけで2045床あると知れば、どうしたらそれが使えるか、という議論になります。ベッド数自体も都内に10万6240あり、そのうち3500なら使用率3・3%。ICUも2045分の129なら6・5%程度です。

 外科医としてハイリスクな手術を手がける私は、ほぼ毎日ICUを利用し、ICUのことはよく理解しています。2045を全部すぐに使えるわけではないのは百も承知です。しかし250分の129で経済を止める前に、2045、10万という分母をどうしたら有効活用できるか考えよう、というのが私の主張です。

 ちなみに、アメリカのICU患者数は、現在2万人強。日本の人口に換算しても8千人で、いま日本全体が850人ほどですから、桁が違う。欧米の医療と日本の医療が違うことも、アメリカで12年間外科医をしていた私はわかっています。その私が見ても、現在、アメリカは西海岸の一部は瀬戸際とはいえ、まだ医療崩壊していません。

 全国のICUの総数が1万7377だということも報じられません。全国の重症者数が850なら使用率は4・9%です。政府も医師会も都も、こうしたファクトを示したうえで、どうしたら使えるようになるか議論をしてほしいです。

 変異種が現われたロンドンでは、ベッド総数の28%が新型コロナの患者に使われ、一般病棟が10万床ある東京都に換算すれば、2万8千床に相当します。また、ロンドンにはICU患者が約1300人います。それでも医療崩壊を起こしていません。ロンドンでは現在、ICU病床が1380用意され、それは東京都の人口に換算すれば2117。一方、東京都が用意しているのは250床です。

 私は決して英米のように、医療体制がギリギリになるまで経済を回せと言っているのではありません。ただ、感覚的に医療崩壊と断定し、経済を止めるのは拙速と思います。まず医療体制を強化しなければ、この先、何度も緊急事態宣言を発出しなければなりません」

多くの病院が人間ドックを続けている現実

「では、たとえば、東京都で新型コロナのために提供されていない残り1900のICUは、どうなっているのか。通常医療に使っているから譲れないと言われるかもしれません。しかし、私が統括する外科医300人のチームも、無駄な手術はしませんが、胆石、鼠径ヘルニアなど多くの手術は不急です。

 整形外科の手術は、歩くと痛い変形性股関節症などに対して人工関節を入れるものなどです。患者さんはそのままでは不便で不都合でしょうが、緊急事態宣言が出され、中小企業がバタバタと倒れ、うつ病患者や自殺者が増えるのと天秤にかければ、手術の2~3カ月延期は許容される不都合だと思います。

 不急医療の最たるものが健康診断と人間ドックです。1月10日現在、都内の大半の急性期病院は人間ドックをやっていて、やめた病院を知りません。この事実が、医療崩壊とほど遠い証左ではないでしょうか。4~5月まで待ってもらい、医療崩壊の閾値を上げる努力が必要です。東京都や医師会は医療崩壊と叫ぶ前に、こういうことをすべきです。

 昨年12月、慈恵の外科医300人を対象に、医療の逼迫度を調べるアンケートを行うと、コロナ前にくらべて外来患者数でも、手術件数でも、総仕事量でも楽になっていました。外科医は社会貢献マインドが高いので、私の号令でコロナの治療に投入することも可能ですが、慈恵ではまだ感染症医と内科系医師が踏ん張ってくれているので、必要ありません。外科医は無力かと思われるかもしれませんが、人工呼吸器を扱えます。新型コロナの治療は意外にベーシックな内容なので、感染症医や呼吸器内科医が指揮しながら、前線には外科医をふくむほかの診療科医師がいるという布陣はとれます。

 しかし、局地的には医療崩壊寸前です。それは東京医科歯科大、日本医科大や昭和大、聖マリアンナ医科大など多くの重症患者を引き受けた病院で、慈恵も感染症科、呼吸器内科、救急・総合診療部、集中治療部など、新型コロナ対応をしている科は医療崩壊間際で、感染症内科部長もここ3カ月、ほぼ帰宅していません。医師会が言うのは局地、または特定診療科のことです。慈恵には660名ほど医師がいますが、新型コロナに直接対応しているのは数十名。各病院でも数%の医師だけが逼迫しているのです。

 私の提言は、彼らの疲弊状況を否定するものではありません。ただ、そこがアップアップしているから日本経済を止める、というのには飛躍があります。私ら外科医はメスを握るために日々精進していますが、国難にあっては『人工呼吸器も扱う』と言う用意があるし、部下もその心づもりでいる。そういうことまでひっくるめて医療崩壊を論じてほしいと思います」

週刊新潮 2021年1月21日号掲載

特集「『医療崩壊はしていない!』 『神の手』外科医が訴える『コロナの真実』」より

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