「医療崩壊は回避できる!」「神の手」外科医が訴える「医療オールジャパン体制の構築を」

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コロナと共生する道

「8月28日の辞任会見で、安倍総理は新型コロナについて語りました。予備費を活用した財政支援によって医療体制を充実させ、医療の受け皿を大きくする。加えて、第2類感染症扱いをフレキシブルに運用し、医療や高齢者施設の従事者に定期的なPCR検査を行う。これらはみな提言の骨子でした。いま思うのは、安倍総理の辞任会見での言葉が継承され、夏から秋の間に準備していれば、事態は大きく変わっていたのではないか、ということです」

 もちろん、大木氏自身は主張を、そのころとなんら変えていない。

「新型コロナが人間社会に深く浸透してしまった以上、ゼロリスクという選択肢はないということを、理解する必要があります。たとえば、経済苦で自殺者が1人出たからといって、経済をフルに回せと主張するのは暴論です。同様に、在宅療養中の新型コロナ患者が急死したからといって、全員を入院させろと主張するのも極端です。メディアも世間も、それぞれの選択肢で起こりうるリスクや痛みだけに焦点を当て、『だからこの政策は間違っている』と非難するのは、いかがなものでしょうか。そういう観点から、医療体制をもっとテコ入れし、受け皿を大きくして医療崩壊を防ぎ、経済との両立を図る、というのが私の主張です。

 いまでも封じ込めるべきだという主張がありますが、人類がパンデミックの封じ込めに成功した例は、ほぼありません。封じ込め論者は中国や台湾を見ろと言います。しかし、5千万人が住む湖北省を一夜にしてロックダウンし、すべての個人をAIで監視するようなことは、日本では無理。台湾は、中国が新型肺炎の発生を発表する前の、2019年12月から防疫体制をとっていました。しかも、海外からの入国者は2週間の自宅待機を求められ、違反があれば約370万円の罰金です。それを日本でできますか。

 そもそも日本が中国からの渡航制限をしたのは、台湾に遅れること3カ月。その間、武漢市民をふくむ数十万人の中国人がノーチェックで入国していて、その時点で封じ込め路線は現実的でなくなっていました。

 日本は昨年4月、GDPで40兆~50兆円という損失を伴う緊急事態宣言を発出し、東京都の1日の感染者数は8人にまで減りました。しかし、7月にはもう第2波が来た。強力な外出自粛の効果は2カ月しかもちませんでした。そうなると選択肢は、経済を動かしながらコロナと共生する道しかありません」

「医療崩壊」の定義は?

「では、どのレベルで経済と両立させるのか。そのさじ加減が、私の意見と、政府や日本医師会、東京都とで分かれるのです。いまの日本の感染対策や、医師会、東京都の意見に違和感を覚えるのは、『医療崩壊』の定義が曖昧で、多くのデータが未公表のまま、イメージで語られている点です。

 私は以前から、新型コロナの患者でも、そうでない患者でも、救える命が救えなかったというのが医療崩壊の定義だと考えています。昨年春に北イタリアで起きた、人工呼吸器の不足にともなう命の選別こそが医療崩壊です。

 一方、日本はもう医療崩壊している、と明言した日本医師会の中川会長は、適切な医療が適切なタイミングで受けられなければ医療崩壊だ、と定義しましたが、違うと思います。日本の大学病院は従来から、3時間待ちで3分の診療と揶揄されます。中川先生の言葉を借りれば、これも医療崩壊にならないでしょうか。

 私は血管外科医で、全国から手術不能とさじを投げられた患者がきます。06年に米国の医科大外科教授のイスを捨てて帰国し、最先端の血管外科医療を慈恵に持ちこみました。最初の7、8年間は、週1回の外来では朝昼夜食抜きで連続20時間やっていました。手術は毎日朝から晩まで執刀しても半年待ち。私自身過労で4回入院しました。これは医療崩壊でしょうか。

 大事なのは新型コロナによる死者を極力減らすこと。それに直結するのはICUです。経済的ダメージも少なくし、そのギリギリの分岐点を探るべきで、重症化した人が最終的にICUに入ることができ、人工呼吸器やECMOを使えるなら、救えるはずの命が救えない事態は防げるはずです。

 羽田雄一郎議員にしても、いったん熱が下がって、自己判断で病院に行かなかった。この一例をもって医療崩壊とは認定しがたいです。志村けんさんは人工呼吸器をつけ、最後はECMOも使ったのに救えませんでした。しかし、これはコロナが地上に発生したことによる死で、医療崩壊による死ではありません。

 ICU使用率をモニターするのが指標として一番わかりやすく、50%を目安にすべきだと大木提言に盛り込みました。ただ使用率を計算する際、分子は重症者数だからわかりますが、分母は曖昧で、メディアも医師会も、ICUが逼迫していると言いつつ、真の分母を伝えてくれていません」

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