「島田紳助」電撃引退から10年 警察OBが明かす「ヤクザと交際する人気者の見分け方」

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 暴力団排除条例の全国整備がされたのは10年前の2011年。それは奇しくも、山口組最高幹部との交際が報じられ、島田紳助が引退を選んだ年でもある。この10年、警察当局の厳しい取り締まりに耐えかね、ヤクザの構成員は減少の一途を辿った。それでも生き残りをかけ、新たなシノギ(資金源)の開拓が続き、一方で半グレの台頭が目立つようになっている。警察OBの生の声を交えつつ、暴力団の動向に詳しいノンフィクションライターの尾島正洋氏がレポートする(前編に続く後編)。

「スポーツ新聞に活躍が報じられていたほかテレビで試合が放映されるような、誰でも知っている人気のプロスポーツチームの選手たちを前にして暴力団対策について講演をしていたところ、ある有名選手が突然、下を向いてうつむいてしまった。その後決して顔を上げなかった」

 と話すのは、長年にわたり暴力団犯罪の捜査を指揮してきた警察当局の幹部OB。

 全国で2011年までに整備された暴力団排除条例(以下、暴排条例)施行から数年後、プロスポーツチームの依頼を受けて行った講演会での一幕を述懐する。

 講演会では多くの選手たちに、「暴力団と交際しないどころか、接触すらしないことが大切。そのためにはどうするか」といった話を進めていたという。

うつむく人気プロスポーツ選手

 当初は演壇の捜査幹部OBに視線を合わせて講演を聞いていた選手が、話が進むうちに下を向いた反応に、「そこでピンと来た」という。

「この選手はヤクザと付き合いがあるな」

 捜査幹部OBは講演が終了後、この有名選手を呼び出して詰問することはなかった。

 しかし、運営会社のマネージャーに声をかけて、「この選手については少し心配なことがある。それとなく(ヤクザとの交際があるかどうか)聞き出して、付き合いをやめるように注意しておいてほしい」と促した。

 プロ野球やサッカーJリーグ、大相撲などあまたの人気プロスポーツだけでなく、日本代表としてオリンピックに出場するような有名選手、さらには歌手や俳優など一般国民の人気を集める芸能人について、前出の捜査幹部OBは、「ヤクザが接触してきて、親密な交際を求めるケースは多い」という。

 その理由について述べる。

「ヤクザは人気商売のようなところが多分にある。例えば、繁華街の飲食店で飲んでいて、身内はもちろん、その場で知り合ったような周囲の客に対して、『自分はこの有名プロ選手を知っている』『あの曲がヒットした人気歌手を知っている』などと披露して、実際にその場で『飲んでいるから来てよ』などと携帯で電話する。そこで実際に呼び出された有名人が店に姿を現すこともある。注目を集め大盛況となる。自分の力を誇示する。それが目的だ」

 暴力団幹部との交際が発覚して芸能界を引退したケースとしてはお笑い界のビッグネーム、島田紳助がいる。

 彼は山口組最高幹部との交際が報じられ2011年8月に引退した。

 この幹部は、「実際にプロスポーツ選手や芸能人が呼び出されて、『タクシーで駆け付けてしまった』と答えた人が多い。断れなかったのだろう」と明かす。

「そこで、暴排条例が施行された際に行っていた講演会などで、『これをきっかけに断りましょう』と呼び掛けた」と当時を振り返る。

 誘われた際に、唐突に「行きたくない」「仕事が入っている」と断れば角が立つ。

 腹を立てた組員が選手や芸能人のマネージャーに電話で確認して、仕事や用事が入っていないことが発覚すればたちまちトラブルになる。

 この幹部は、「暴排条例ができたために、交際者として名前が公表される可能性もある。今まで応援してくれたように、今後も選手としての活動を応援してくれるのであれば、交際しないことをお願いしたいなどと普段から断る常套句を考えてメモにまとめておくことを推奨した」という。

シャブと振り込め詐欺

 前編で記したように、暴排条例の全国整備で暴力団の資金源は縮小している。

 前出の指定暴力団幹部は、「最近のシノギはシャブと振り込め詐欺だ」と明かす。

 全国の警察が押収した覚せい剤は2010~2015年は年間300~400キロだったが、2016年には約1500キロと急増しその後は毎年、1000キロ以上で推移する。

 そして、2019年には約2300キロとなり、警察庁の統計上では過去最多となった。

 警察庁幹部は、「覚醒剤はほぼ全て暴力団が関与している。経済的に苦しくなり、手を出さざるを得ないのだろう」と指摘。

 警察が押収した覚醒剤は氷山の一角に過ぎず、実際の流通量ははるかに多いとみられる。

 一方、特殊詐欺についても、2015年に摘発されたのは約2500人で、うち暴力団構成員は826人で3割以上を占めた。

 翌年以降も600人以上が摘発されている。2018年は527人と減少したが、高止まりしたままなのが実態だ。

 活動資金の獲得が困難となり暴力団構成員の数が減少している一方で、「半グレ」と呼ばれる新たな不良グループの存在がクローズアップされてきている。

 半グレについて、関西地方に拠点を持つ指定暴力団幹部が語る。

「ヤクザになると組織内の規律やしきたりが多いため、最近の若い人はなりたがらない。近ごろのヤクザは食えないし暴対法などの規制もあるために、勝手なことをやって楽に稼ぐにはヤクザより半グレということなのだろう」

 特殊詐欺なども半グレのグループがSNSなどで「闇バイト」を募集。

 応募してきた若者に指示して高齢の被害者宅に電話をかける「かけ子」や、現金を受け取る「受け子」などを組織、効率的にカネをだまし取ることが横行している。

ヤクザより半グレの理由

 このため、警察庁は2013年3月、半グレグループについて「準暴力団」として本格的な組織性の解明のために情報収集することを本格化するよう全国の警察本部に指示。

 メンバー構成や活動資金獲得状況などについて収集した情報を警察庁のデータベースに登録して情報共有を進めている。

 この結果、全国に約60のグループが存在し約4000人のメンバーがいることが確認されている。

 警察庁幹部が特殊詐欺の犯行グループについて指摘する。

「オレオレ詐欺とか振り込め詐欺が社会問題になってすでに20年近くになる。途中から資金が苦しくなってきた暴力団が参入してきた。その後、半グレのような若者たちが暴力団の下請けのように使われていた。しかし、最近は半グレが単独で行っている。新型コロナウイルスの感染拡大で、政府からの様々な給付金支給にも便乗している」

 近年は特殊詐欺などで金銭的な被害だけでなく、被害者が命を落とす凶悪事件も起きている。

 2019年2月、東京都江東区で一人暮らしの女性(80)が押し入った若い男3人組に口や手足を粘着テープで縛り上げられたうえ室内を物色された。

 女性は窒息死。事件前に資産状況を尋ねる電話があったため、「アポ電強盗」と呼ばれた。

 特殊詐欺の手口が凶悪化したものとみられた。まさに暴力団に準ずる危険なグループによる犯行だった。

 暴排条例の全国整備から10年となり、暴力団勢力は確実に縮小している。

 しかし、暴力団側もシノギと呼ばれる資金獲得活動を進化させ生き残りを図っている。

 さらに、半グレという新たな犯行グループが登場し、闇社会と警察との攻防はまだまだ続く。

尾島正洋
1966年生まれ。埼玉県出身。早稲田大学政経学部卒。1992年、産経新聞社入社。警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当し、主に社会部で事件の取材を続けてきた。2019年3月末に退社し、フリーに。著書に『総会屋とバブル』(文春新書)。

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月21日掲載

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