マスクが“下着化”した世界 今後の社会を占う(中川淳一郎)

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 いやはや「マスク生活」、まったく終わってくれませんね。今や世界各国でマスクが当たり前の状況になっていますが、思い出すのが2012年末、チェコに行った時のこと。私の家人は花粉症かつアレルギー性鼻炎のため、冬から春にかけてはマスクをつけています。飛行機の中も乾燥するためマスクをつけています。

 彼女にとって「冬から春はマスクをつけるもの」という感覚があったのですが、プラハの街中で彼女が通り過ぎる人々からチラチラ見られるのに気付きました。

 あぁ、そうか! と。

「マスク外せ!」

 こう言いました。当時のヨーロッパでは、マスクをしていたら逃亡犯か病気持ちという感覚だったのです。そうした状況を事前に私は知っていたため、すぐに外させました。

 コロナの流行直後も一部の日本人にとってマスク着用は普通のことでした。しかし、海外の人からすれば「大袈裟過ぎるwwww」的な発想だったのでしょうが、以後、彼らにとっても普通のこととなった。アメリカでも一時は、共和党支持者はマスクをせず、民主党支持者はする、という政治的アイコンにまで発展したりしました。

 思えば1年前は呑気だった。中国からやってきた観光客が「日本にいるとマスクをしないでいいのが嬉しい」みたいなことを言っていたと報じられました。それがあっという間に世界中にこのウイルスが広がり、日本も「鎖国」し、マスク着用が当たり前になった。

 昨年の成人式の画像を見ると、誰もマスクをしていない。しかし、今年は成人式の集合写真はマスクをしなくては「気が弛んでおる!」と批判されるため、恐らく多くの新成人がマスクをつけて集合写真を撮影することでしょう。

 恐らくコロナは終わらない。あとは、総理大臣か厚生労働大臣が「コロナは終わらないからもう日常に戻ろう。マスクは外していい」と言う日を待つしかありません。政治家も余計な責任を取りたくないから、マスク生活はあと数年続くでしょう。

 もはやマスクはパンツと同じものになってしまった。人々が性器を見せて歩くのはふしだら、という概念からパンツをはくようになりましたが、マスクも「鼻と口を隠すのが公共の場でのエチケット」ということになりました。

 テレビが「気の弛んだ愚民」を紹介する際は「マスクをしていない人もいますねぇ~!」というリポーターのコメントがセットになっています。マスクだからまだいいものの、このコロナウイルス、終息は多分ないので、今後は「防護服を着ていませんね~」「フルフェイスのヘルメットをかぶっていませんね~」にならないのか心配しています。

 2020年が世界中の人にとって「マスク=パンツ」の元年になったのであれば、だったら「マスク必須」の社会がどうなるかを考えた方がいいでしょう。

 性器を出して歩いていたら「公然わいせつ」で逮捕されます。これに準じて、マスクをつけていない人間については「公然疫病拡散可能性」で逮捕されるかもしれません。そして、「フリチン」という言葉もありますが、これからは「フリ口」「フリ鼻」なんて新語まで登場し、糾弾する流れになるのでは。恐ろしい。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2021年1月14日号掲載

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