ヒトラーの後を追う文在寅 流行の「選挙を経た独裁」の典型に

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司法制圧は公捜処に任せる

 ――検事総長や裁判官の弾劾が始まるのですか?

鈴置:「共に民主党」の首脳部はそこまでやるつもりはなさそうです。ハンギョレの社説「不適切な韓国検察総長の弾劾論、検察改革の本質に集中を」(12月28日、日本語版)が左派本流の本音を明かしています。引用します。

 なお、この記事では尹錫悦氏の肩書は「検察総長」に、「共に民主党」は「民主党」と訳されています。

・民主党のなかでも「弾劾は憲法裁判所の棄却につながる可能性がある。再び口実や逆風を提供してはならない」(ホ・ヨン報道担当)や「(総長への弾劾)訴追をして国民世論が悪くなる場合の痛みも考えなければ」(イ・ソクヒョン元国会副議長)などの慎重論が提起された。妥当な懸念であり指摘だと思われる。
・民主党は国民の生活を最優先にして、検察総長の政治的な検察権行使を本質的に遮断できる捜査と起訴の分離や高位公職者犯罪捜査処(公捜処)の支障のない発足など、実質的な検察改革の課題完遂に力を注いでほしい。

「共に民主党」は国会で過半数の議席を持ちますから、弾劾訴追は十分に可能です。ただ、憲法裁判所がそれを認めるとは限らない。そんな横道にそれて時間を無駄にしなくとも、近く発足する公捜処に任せればいい、との主張です。

日本には三権分立を唱えるくせに

――ハンギョレが「正義」に目覚めたわけではない……。

鈴置:ええ、左派の実利を主張しただけです。公捜処の主な捜査・起訴対象は検察官と裁判官です。

 公捜処により尹錫悦総長や、鄭慶心教授を有罪にした裁判官を犯罪人に仕立て上げればいいわけです。実際、韓国の左派は「公捜処の捜査対象第1号は尹錫悦だ」と公然と唱えています。

 尹錫悦総長が捜査の指揮を執ってきた政権の不正事件も、公捜処が発足すれば検察から移管し「なかったこと」にできます。

 仮に起訴されても、少し待てば公捜処を通じ裁判官に圧力をかけられるようになります。政権の意向に反して判決を下す裁判官が皆無になるとは言いませんが、急速に減るのは間違いありません。

 1987年6月の民主化まで――たった34年前まで、裁判官は検事と同様、いわゆる軍事独裁政権の僕(しもべ)だったのです。

――司法の独立の消滅、三権分立の崩壊ですね。

鈴置:その通りです。検事総長の職務復帰を認めたとして裁判所批判に乗り出した文在寅政権側の人々を、保守系紙の朝鮮日報が揶揄しました。

 日本に対しては「我が国は三権分立を確立しているから判決に介入できない」と言い張るのに、国内では裁判所に圧力をかけているではないか、と指摘したのです。「徐珉、『政権側は三権分立を軽んじ、司法を圧迫』」(12月29日、韓国語版)を要約して引用します。

・徐珉(ソ・ミン)檀国大学教授は12月29日、フェイスブックに「選択的三権分立」というタイトルの文章を載せ「政権側は今や三権分立などは軽く踏みつけ、司法を圧迫する」と評した。
・同教授は「日本企業の強制徴用に最高裁判所が判決を下した際、(政権側は)『三権分立である以上、行政府は干渉できない』と主張した」とも書いた。三権分立を選択的に適用しているとの指摘だ。

左派からも「法治破壊」批判

 注目を集めたのは、左派陣営からも三権分立の破壊を批判する人が出たことです。左派の論客として有名だった陳重権(チン・ジュングォン)東洋大学(韓国)元教授です。

 中央日報への寄稿「陳重権、『油断するな、ヒトラーも選出された権力だった』」(12月30日、韓国語版)のポイントを訳します。

・最近、彼ら(政権側)がしばしば使うのが「選出された権力」という言葉だ。大統領を憲法以上の存在に格上げし、青瓦台(大統領府)が大韓民国の法律が適用されない治外法権地域と宣言するために使われる。「誰もが法の例外ではあり得ない」という法治主義の原則を全面的に否定する表現である。
・「選出された権力論」を言い募るのは実は、自分たちの権力の正統性を否定するのと変わらない。朴槿恵(パク・クネ)大統領も「選出された権力」だったが、選出されていない9人の憲法裁判官に弾劾された。それがそんなに不当なことならば、今からでも彼女を監獄から出して、不当に得た(?)政権を返すことだ。
・民主主義の命は三権分立にある。その中で司法はもともと選出されない権力であり、「三権分立」とは選出権力と非選出権力の間の牽制を意味する。故に「選出」されたとの理由だけで大統領が全権を持つということはあり得ない。
・実際、「選出」された後にやりたい放題やった指導者がいた。アドルフ・ヒトラーだ。ナチ党は文在寅の大統領選挙での得票率よりもわずか2%多く得ただけだ。しかし、1933年3月、その力で「全権委任法」を通過させ、総統に全権を与えた。まさにその日、ドイツの民主主義は終焉を告げたのだ。

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