レストラン経営者の前で移住者が土下座 理不尽な怒りに直面する田舎暮らしのリスク

国内 社会 2021年1月3日掲載

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田舎の“日常”

“事件”は12月1日の晩に発生した。東京からおよそ150キロ、中央道で都心から2時間弱の山梨県北杜市清里。昭和のバブル期にはおおいに賑わったこの街も、閑散として久しい。

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 驚きの光景を目撃した地元住民が語る。

「地元でうまいビールを飲みに行こうと思えば、まずその店が思い浮かぶはずですが、あの晩も女房や子供と久しぶりに訪れました。で、ふと傍らを見ると、その店のオーナーの親族の前で、背広姿の中年の男が土下座して、何度も何度も頭を下げているじゃないですか。『なんとか今日だけは勘弁してください』とか繰り返しながら、必死で親族の足にすがりついているんです。そのテーブルには、ほかに男女2人が座っていましたが、慄然とした表情をしていました」

 タイルの床に頭を何度もこすりつけている男は誰なのか。

「背広を着ていたので、どこかの出入り業者が不始末でもして謝っているのかな、くらいに思っていました。その男性が立ち上がると顔が見え、驚きましたよ。僕らと同じで、数年前に移住してきた知り合いだったんですよ。彼は、夏場は林業をやったり、コンビニエンスストアで働いて、冬場は地元のスキー場でリフト係をやったりして、暮らしています。地元の人たちとは『自分の性格では馴染まないから』って、人里離れた場所の小屋を借りて暮らしている人です。お店にも移住当初から惚れ込んで、僕ら移住者同士、家族ぐるみでよく来ていました。彼の誕生日会を、その店で開いたこともあったんです。常連の彼がどうして土下座しているのか、もうびっくりしました」

土下座の理由

 その店のオーナーは、地元でもちょっとした有名人だ。

「彼自身は移住者、地元民を問わずに気さくで、ガッツもあふれて勇気をくれる人で、誰からも愛されています。ただ、その親族が……」

 オーナーの親族も、その飲食店の経営に関わっている。

 それにしても今どき「土下座」など、もはや半沢直樹の世界以外ではお目にかかる機会などないはずだ。

 そこで土下座した中年男性に、ことの経緯を訊ねてみた。

「実はあの日は、僕の知人で、山梨県庁の要職に就いている方が、清里に宿泊されました。彼は東京出身なので、ぜひ山梨でも1、2を争うお店もお連れしようと、わざわざ予約をしたんです。店に着いて、挨拶をした、その瞬間でした……」

 オーナーの兄弟は、山梨県庁の職員の前で、「甲州弁がわかるか」と切り出した。

「清里は山梨県庁が嫌いじゃ」と、いきなり甲州弁で怒鳴ったのだ。

「『山梨県庁の感染症対策はふざけてやがる。感染症対策をするためにテーブルの上にパーティーションを置いたら、店の雰囲気が台無しだ。県庁のやつらはそれをわかっているのか』と。観光客が多い山梨県では、グリーン・ゾーン認証という独自の感染症対策を行っています。一定の基準をクリアしたお店には、証明書を出しているんです。彼は『自分の店は規準をクリアできない。県を訴えてやる』と言い出しました。それで僕は『今日お連れした人は担当者ではない。今日は清里で一番おいしいお料理をと思ってお招きした』と何度も言ったのですが、ダメでした。食事どころではない雰囲気になって、それで土下座した次第です。もう本当に参りました」

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