レストラン経営者の前で移住者が土下座 理不尽な怒りに直面する田舎暮らしのリスク

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土下座のリスク

 中年男性が疲れた表情で続ける。

「都会とされる甲府の一部分をのぞけば、山梨ではたいがい、どこへ行っても、こんなものですよ。本人の勘違いだろうが理解不足だろうが、お年寄りに限らず、一方的に怒鳴られることはよくあります。つまり、田舎暮らしというのは常に、こうした理不尽な怒りに直面するリスクがあるんです」

 コロナ禍で、2拠点居住=デュアルライフという言葉に注目が集まっている。都心と地方など、2つの住居を構えるという意味だ。

 山梨県の人気地の別荘地では、「もはや売りたくても物件がない」(小淵沢の不動産業者)と言われるほどである。

 理不尽な怒りは、習俗の壁、人柄の違い、と言う者もいる。しかし個人では、その不条理を簡単に解消することはできない。

 山梨県ではこうしたトラブルを防止しようと、企業や団体などまとまった数で定住する「コミュニティー移住」の誘致を進めていく。

オーナー一族は反論

 清里で起きたこの土下座事件は、地元で一斉に広まったことは言うまでもない。

 では、お客に恥をかかせたオーナーの親族の言い分を聞いてみよう。

「山梨県は裸の王様だってんだ。独自の感染症対策がいいって言うんだったら、ほかの自治体だって真似するはずだろうが。パーティーションで机の上を区切って、料理を小皿に分けて、それで初めてマスクを外して食事をして楽しいかってんだ。だからうちは、感染しても自己責任。安全なグリーンじゃねえ。イエロー・ゾーンだって謳ってんだ」

 山梨では感染者だけでなく、濃厚接触者というだけで、村八分にされかねない。そんな地元の状況を知っているはずの人物にしては、あまりにも意外な発言である。

 どんなに移住歴が長くなり、地元民と親しくなっても、土下座のリスクは常にある。

 それを回避する術はない。それもまた、田舎暮らしの現実なのだ。

清泉亮(せいせん・とおる)
1962年生まれ。近現代史の現場を訪ね歩き、歴史上知られていない無名の人々の消えゆく記憶を書きとめる活動を続けている。

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月3日掲載

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