令和の巌流島の決戦に勝利した阿部一二三 歴史に残る名勝負の陰に「女性花火師」あり

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 ぜひ見たい試合だったが全日本柔道連盟(全柔連)による新型コロナ対策の厳しい取材人数制限で報道参加できなかった。「柔道の総本山」とはいえ講道館(東京都文京区)はビジネス街の普通のビル程度で狭い。といって五輪代表を決めるとはいえ「ワンマッチ」のために立派な武道館などを使うわけにもゆかない。フリーランスが参加できないのは無理もない。無観客試合で観戦できたのは両選手のコーチ、家族など限られた人だけだった。

 12月13日夕刻、「令和の巌流島決戦」と形容された阿部一二三(パーク24、23)と丸山城志郎(ミキハウス、27)による男子66キロ級の五輪代表を決める特別試合が行われた。

 息詰まる攻防は24分間の大激戦となり、延長19分過ぎに阿部が大内刈りで「技あり」を奪って決着した。これで女子52キロ級で五輪内定している妹の詩(日本体育大学、20)と兄妹五輪を決めた。勝利の瞬間、男泣きし、涙を振り切らんと気合を入れた阿部は「これだけ長くなるとは思わなかった。想定外ではなかった。集中力を切らさず、雑にならず最後まで丁寧にできた」などと語った。いつも通り「力み気味」の語りだが当然だろう。柔道で兄妹でのオリンピック同時出場は初めて。会場で応援した妹は目を泣き腫らした。

危険な捨て身技も繰り出す

 試合は4分間の「本割」でも決まらず、どちらかがポイントを奪った時点で決する時間無制限の「ゴールデンスコア」に突入した。これまで腰高な背負い投げなどで強引に持っていくタイプだった阿部は丸山の鋭い返し技を警戒し、低い姿勢を貫いた。丸山は得意の内股や巴投げを狙ったが阿部にしのがれた。阿部を神港学園高校(神戸市)時代に取材した時「寝技は嫌いです」と言っていた。しかしこの日、相手の看板技でもある巴投げも見せた。自ら畳に背をつけて足で相手を自分の頭越しに投げる捨て身技のこの技は、丸山のような寝技巧者相手に失敗すれば押さえ込まれるなど「自滅」の危険がある。寝技もよく練習していただろうが気迫が感じられた。

 勝負をつけた阿部の大内刈りも切れ味は悪かったが、最後は「いやあー」という気合とともに丸山をねじ伏せた。阿部はその晩のNHK番組で「大内で相手が下がったのが見えたのですぐにもう一度かけた」と自己分析した。すでに五輪に内定している73キロ級のリオ五輪王者、大野将平と練習を積んできた丸山は大野への感謝を述べ「投げられたなという感覚はあった。負けたけどもやってきたことをすべて出せた」と唇をかんだ。

 試合時間24分(延長時間が19分)は戦後として最長記録だ。さらに国際ルール試合とはいえ、五輪や世界選手権代表を決める国内試合では採用しなかったカラー柔道着を採用した。全柔連は白を貫きたかったが、10月の講道館杯で誤審があり急遽、審判にわかりやすいカラー柔道着に切り替えたという。五輪代表を決めるためだけの「特別試合」も前例がない。すべてが異例尽くしだった。

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