中国の「戦狼外交」に米国も豪州もインドも反発 中国経済は窮地に立たされて――

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「欧米は協力して中国の好戦的な『戦狼外交』に立ち向かう必要がある」

 EUのシャピュイ駐中国大使はこのように述べ、「航行の自由は必要不可欠だ。南シナ海の領有権問題でアジア諸国と協力する必要がある」との認識も示した(12月10日付ロイター)。

 ドイツやフランス、英国の海軍はこの数ヶ月、中国の拡張主義を懸念し、インド太平洋地域の安全保障への関与を相次いで表明している。

「戦狼外交」に対する反発から、中国周辺では「包囲網」ができつつある。11月25日付米フォーリン・ポリシー誌は、「クアッド(Quad:日米豪印4カ国協力)はアジア版NATOである」との論説を掲載している。今日のNATOは、冷戦期と異なり、軍事的というよりは政治的な組織である。軍事面ではテロ対策、サイバー安全保障などが主であり、それ以上に軍備管理、エネルギー安全保障といった政治、経済的な分野で活動していることから、クアッドはアジア版NATOと言っても過言ではないという趣旨である。

 クアッドの中で、中国との対決姿勢を最も鮮明にしているのは米国である。

 米国防総省は今年6月から、ファーウエイなどの中国企業を人民解放軍に所有または管理されている企業に指定し始めている。指定されると米投資家の株式購入の禁止対象となるほか、対象企業と米企業の取り引きも禁じられることになる。

 米国防総省は12月に入ると、新たに中国企業をブラックリストに追加した。半導体製造専門のファンドリー(受託生産企業)である中国SMICである。

 SMICは、中国が半導体の自給率を向上するための中核的な半導体メーカーである。そのSMICが軍事企業に指定されたことから、半導体の自給率を現在の20%弱から2025年に70%に向上させるという目標(中国製造2025)がほぼ不可能になってしまった。SMICは半導体工場を新設する場合に米国の製造装置が入手できないばかりか、既存装置のメインテナンスも受けられなくなる。このため、SMICは、現在稼働中の全ての半導体工場が停止せざるを得ない状況に追い込まれつつある(12月8日付JBpress)。

 中国の自動車産業は世界最大の生産台数を誇るが、半導体の自給率の低さがアキレス腱である。独フォルクスワーゲンは中国の乗用車市場で約2割のシェアを握る最大手であるが、12月に入り、中国での合弁会社2社が、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で半導体の供給に支障が生じたことから、生産の一時中断を余儀なくされている。

 中国汽車工業協会も12月8日、「自動車用半導体の不足が来年第1四半期から一部の中国企業の自動車生産に影響し始める可能性がある」としている。自動車生産は近年半導体への依存が高まっているが、中国企業は主に欧州から輸入している。

 中国の自動車市場は世界に先駆けて、新型コロナの影響から脱し、V字型回復を果たしているが、意外な落とし穴が生じたことで暗雲がたちこめている。

「弱り目に祟り目」ではないが、このような半導体危機の最中に中国最大手のSMICが操業停止となれば、中国の自動車産業は大打撃を受けることになるだろう。

 成長率の高い中国の民間企業は、このところ米株式市場への上場などを通じて米ドル資金を獲得してきたが、その道も閉ざされようとしている。

 米下院は12月2日、米株式市場に上場する外国企業の会計監査状況について、米当局の検査を義務づける法案(外国企業説明責任法案)を全会一致で可決した。今回の法案では、米国に上場する中国企業が米当局による監査状況の点検を3年連続で拒んだ場合、株式の売買が禁止となり、中国企業を上場廃止に追い込む可能性がある厳しい内容である。

 米株式市場には電子商取引(EC)大手のアリババ集団やインターネット検索最大手の百度(バイドゥ)、中国石油天然ガス(ペトロチャイナ)など中国企業217社が上場し、時価総額は合計約2・2兆ドル(10月時点)に上っているが、今回の法案成立により、中国企業の成長資金の調達に支障が出ることが懸念されている。

 米国は、モノ(半導体)の流れやカネ(株式上場)の流れに加えて、ヒトの流れも阻止しようとしている。

 米司法省は12月2日、「技術盗用を巡る取り締まりを強化する中、中国の研究者1000人以上が米国を去った」ことを明らかにした。

 豪州も負けてはいない。新型コロナウイルスの発生源に関する国際調査を豪州が提案したことに腹を立てた中国が「度重なる嫌がらせ」とも言える制裁措置を取ってきているのを受けて、豪州議会は12月8日、豪州の地方政府と大学が海外政府と結んだ協定を政府が破棄できる権限を骨子とした「外交関係法」を成立させた。これにより、政府は、貿易・文化・科学・保健などの分野で外国勢力の参加を制限することができるようになったが、その狙いは中国の「一帯一路」プロジェクトを阻止することにあるとされている。

 インドも同様である。中国からの今年の輸入額は前年比13%減になる見込みである。

 インドは、中国主導の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)から脱退したものの、豪州との間で二国間自由貿易協定(FTA)締結に向けた協議を行っている。

 安全保障と経済は不即不離の関係にあることから、日本を除くクアッドの3カ国は中国との経済関係を縮小し始めている。クアッドがアジア版NATOだとすれば、今後アジアで新冷戦が生じるリスクがある。このことを頭に入れながら日本も慎重に行動すべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所上席研究員。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)、2016年より現職。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月17日掲載

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