「まさかこれがセットだなんて…」 ドラマ「ノースライト」の見どころは?【横山秀夫×西島秀俊】

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

Advertisement

CGナシの「超豪華セット」に注目

 12月12日、19日と2週連続で放送されるドラマ「ノースライト」。原作は『64』『半落ち』などの作品で知られる作家・横山秀夫さん、主演は印象的な刑事役を数々演じてきた俳優・西島秀俊さん、となれば警察ミステリーかと思いきや、このドラマには刑事も公安も出てこない。ドラマ収録たけなわの秋の日、原作の設定通り軽井沢・信濃追分に建てられたセットで、お二人に話を聞いた。

 今回、西島さんが演じる主人公・青瀬稔は、小さな建築設計事務所に勤める「一級建築士」だ。バブル崩壊後の建築士としての敗残人生から立ち直れずにいた青瀬のもとにある日、吉野という夫婦から〈あなた自身が住みたい家を建ててください〉という風変わりな依頼が舞い込む。この依頼に、ふたたび建築への熱情を滾(たぎ)らせた青瀬は、ノースライト(北側から差し込む柔らかな光)を主役とした渾身の作品「Y邸」を完成させた。Y邸は『平成のすまい200選』という本でも紹介され、彼の代表作となるのだが……、やがてY邸が「空き家」となっていることが明らかになる。吉野一家はどこへ消えたのか? それは、なぜなのか?

 西島さんは、『ノースライト』への思いをこう語る。

「ある一家が失踪するという謎から始まって、青瀬が自らの人生と交錯させながらその謎を追い求めるうちに、登場人物それぞれの人間ドラマが立ち上がってくる。そういう意味では、刑事と建築士という違いはあっても、まさに横山先生の王道のミステリーだと思います。ミステリーのはじまりであると同時に、どん底まで落ちた青瀬が再生するきっかけとなるのがY邸であり、青瀬以外の登場人物にとってもこの建物はその後の人生に大きな影響を与える存在です。いわば、物語の最大のモチーフがY邸なんです。『200選』にも選ばれた一人の建築士の代表作ということで、私の中でY邸のセットに対する期待度は上がっていました。いわば相当ハードルが高い状態で現場に来たんですが、期待以上の出来栄えに驚きました。まさに美術部が魂を込めて作った建物。監督、プロデューサーはじめスタッフの、この作品にかける思いを強く感じました」

 ここですべてをご覧いただけないのは残念だが、横山さんと西島さんのツーショットが撮影されたリビングルームだけでなく、浅間山を望む夫婦の寝室も、ノースライトを採り込む「光の煙突(チムニー)」も、このセットでは小説中のY邸が贅沢に再現されている。

「青瀬がタウトの椅子に座って、一枚絵のような浅間山の絶景を見るシーンがあります。スタッフからもちゃんと言ってほしいと頼まれているので強調しておきますが、これは決して合成ではなく、すべて実景です。このセットは、演じる側にとっても大きな助けになりました」

 横山さんも、「まさかこれがセットだなんて。さっき車で撮影現場を探していたんですが、どなたかの邸宅だと思って通り過ぎてしまいました」と笑いつつ、こう言う。

「映像化のために書いたんだっけと錯覚するくらい、小説の中のY邸が立体的に視覚化されている。素晴らしい出来です。実は、ドラマ化の交渉でプロデューサーの方とお会いした際、冗談めかして『実際にY邸を建ててくれるならOKです』と言ったら、『もちろん建てます』と即答されて驚きました。『ノースライト』にとってY邸は極めて重要なアイテムですが、映像化するとなると、CGか何かで処理するしかないんだろうなと思っていましたからね」

 原作者も主演俳優も絶賛する「Y邸」だが、ロケの終了とともに撤去され、今は跡形もない。何とももったいないと思ってしまうが、それがテレビの世界。セットの完成度は、ドラマの中で体感していただきたい。

なぜ「建築ミステリー」?

 それにしても、横山さんはなぜ「建築士」が主役のミステリーを書こうと思ったのか?

「執筆当時の多忙さがもたらした発想でした。仕事場として借りたマンションの一室で、3~4時間睡眠で小説を書くだけの生活を何年も続けていました。仕事場に“通っている”はずが年に十数回しか自宅に帰れず、もはや仕事場に“住んでいる”状態だったんですね。その間、寝ても覚めても小説の登場人物の人生を考えていたわけですが、私自身の実人生はぽっかり穴が空いてしまっていました。忙しい時だけ使うはずだった仕事場が終の棲家のように感じられて、だから自然と、人にとって暮らしとはなんぞや、家とはなんぞや、といった自問がテーマ化していったのだと思います。実際に『ノースライト』を書き進めてみて、家を書くということは、すなわち家族を書くことなのだと気づかされましたけどね」

 そもそも自分にとっての「ミステリー」とはトリックがあるとかないとかではない、と横山さんは言う。

「人は『人間が考えることはそうは違わない』と思いがちで、物語の主人公もその感覚で他の登場人物の心を推し量っていく。世の中には自分と異なる個性や人生が星の数ほどあると頭ではわかっていても、限られた人生経験の中で獲得した自分の物差しを他人にあててしまうんですね。だから人は人を見誤る。物語が結末を迎えた瞬間、それまで主人公に見えていた世界が劇的に変貌する……それこそが私にとってのミステリーの定義なんです。

 なので、主人公が警察官だろうと建築士だろうと関係ないんですよ。ただ、これまでの作品では登場人物にどんどん負荷をかけて追い込んでいく、書いている私も追い込まれていく、という感じが強かったのですが、『ノースライト』は少し違って、書きながら登場人物たちを見守っているような感覚を覚えました。結果として、今までの作品よりも、家族の物語、再生の物語のトーンが色濃く出たのかなと自己分析しています」

 最後に、西島さんにこのドラマの見どころを聞いてみた。

「『ノースライト』は、一人の人間の再生の物語であり、家族の物語であり、男同士の友情の物語でもある。建築士という仕事の矜持と嫉妬などの複雑な思いもからまっています。ミステリーを追いかけながら、そこから立ち上がる深い人間ドラマもぜひ観てほしいですね。そして、最後にすべてが明かされた時に、主人公が気づいていないところで、実はいろんな人がいろんな思いで動いていたことがわかる。そんな感動的なドラマですので、ぜひご覧になってください」

 見どころは、もう一つ。横山さんと西島さんのツーショット写真の背景には、本当なら大きな窓いっぱいに浅間山の雄姿が広がるはずだが、この日は生憎の空模様。その絶景はドラマ本編でお楽しみください!

NHK土曜ドラマ「ノースライト」
放送予定:2020年12月12日(土)、19日(土)<全2回>
放送時間:夜9時~夜10時15分
放送局:NHK総合/BS4K 
原作:横山秀夫『ノースライト』
脚本:大森寿美男
音楽:稲本 響
出演:西島秀俊、北村一輝、田中麗奈、林泰文、柄本時生、田中みな実、長澤樹、竹財輝之助、池田鉄洋、戸田昌宏、でんでん、勝矢、梅沢昌代、品川徹、徳永えり、山口果林/伊藤淳史、青木崇高、寺脇康文、宮沢りえ ほか
制作統括:佐野元彦(NHKエンタープライズ) 長谷川晴彦(ロボット) 訓覇 圭(NHK)
演出:笠浦友愛(NHKエンタープライズ)

2020年12月11日掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。