「七人の秘書」高視聴率だが違和感 「女を愛でるおじさん目線」の古さよ

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 プロンプターを読むだけで人心を忘れて生まれてきたような政治家、キャッチーな言葉による詐欺まがいの施策で民を愚弄し続ける知事、社内の覇権争いしか頭にない強欲な銀行マン、悪しき魂で儲けと権威しか頭にない医師、身内の不祥事を隠蔽する警察上層部。現代に蔓延(はびこ)る胸糞悪い巨悪を、秘書たちが隠密裏に成敗していく。視聴率も上々、「七人の秘書」である。

 みんな大好き勧善懲悪&一話完結。千客万来の大入りだが、熱く語る人は皆無。話題沸騰とはいいがたく。

 女性が暗躍するという私の好きなテイストのはずなのに、違和感がどんどん膨らんでいく。二人羽織の後ろにおじさんがいるというか、女性の着ぐるみを剥いだらおじさん出てきたというか。決して小さくない違和感をきちんと検証しよう。

 まずは登場人物を。銀行のお偉いさんの秘書室勤務が木村文乃と広瀬アリス。木村は元銀座のホステスで、現在は派遣。広瀬は亡くなった頭取の元秘書だが、頭取とは清い心の交流をしていたっつう脳内花畑設定。腹黒い都知事の秘書が富裕層育ちの大島優子。大学病院の院長秘書で、医学とハッキングに精通しているシム・ウンギョン(いわゆるメカ担当)。セクハラとパワハラの宝庫・警視庁警務部長の秘書が菜々緒(アクション担当)。政治家の元秘書で現在は家政婦の室井滋。この6人を束ねるのが同じく政治家の秘書だった江口洋介。今は湯切りが微妙なラーメン屋店主だ。

 当初「7人不要説」を主張していたが、語呂の良さと侍リスペクトは納得いくし、人手は多いほうがいい。続けるならメンバー替えるなよ、とだけ釘をさしておく。

 違和感(1)。ラーメン屋に集えば戦略会議もできるのに、なぜプール? 化粧落として着替えてまた化粧して。体調不良の時は水に浸かるのも気が進まないし、この時間のロスは非合理的。ただでさえ忙しい秘書業務の合間を縫うならば、プール集合の意味は何? この発想は女由来ではないなと。

 違和感(2)。悪人に対して色仕掛けの古さ。いや、まあ、これはまだまだ全世界共通だろうけれどもよ、ミニスカ穿いて脚出して引っ掛かると未だに描かれる男も男で憤りを感じないのか。

 違和感(3)。室井滋が「中高年女性が嘲笑されて貶められる」装置になっている前時代的感覚。TBSあたりがここ数年のドラマで払拭してきた努力が水の泡に。

 女性観がどうにもこうにも「女を愛でるおじさん目線」で居心地悪いんだよな。6人のすこぶる有能な女性たち(アリスは別枠)が格好よく見えない。男社会の権威主義に刃向かっているように見えて、本質は忍耐と迎合。女たちを束ねるのが男というのも「要職は男で」という声が聞こえてしまう。

 でも視聴率はしっかり獲得。違和感を抱く自分を納得させるために、理由を考えてみた。もしや「科捜研の女」沢口靖子からの前振り&タイトルコール、そしてナレーションの岩下志麻の効果? 抑揚レスの味わい深い声が潜在意識に訴えている? サブリミナルマリコ&シマ説、どうかな?

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年12月10日号掲載

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