入団は決定的…低迷ヤクルトに39歳「内川聖一」は本当に必要なのか?

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 プロ野球もシーズンオフとなったが、この時期に毎年話題となるのが自由契約となった選手の“再就職”だ。12月7日には12球団合同トライアウトが行われるが、再び選手としてユニフォームを着ることができるケースはごく一部である。しかし、そんな中でも水面下で争奪戦となり、既にヤクルト入りが確実と言われているのが前ソフトバンクの内川聖一だ。ヤクルトは国内FA権を取得した山田哲人と石山泰稚との再契約に成功し、新外国人獲得でも積極的な動きを見せている。2年連続最下位からの巻き返しへの本気度は感じられる。そんな中での内川の獲得は球団にとってどんな影響をもたらすのだろうか。プラス面、マイナス面両方から考えてみたいと思う。

 まず、プラスの面は豊富な経験だろう。ヤクルトは2015年にリーグ優勝、2018年には2位となっているが、過去10年間で5度の最下位と、どちらかと言えば低迷している印象が強い。野村克也監督時代の常に優勝争いを演じてきたチームから考えると、勝ち方を知っている選手が少ないというのが現状である。

 内川はソフトバンクに移籍した2011年から今年を含めると7度の日本一を経験しているが、それ以前に所属していたベイスターズではまさに暗黒期とも呼べる弱いチームでもプレーしている。いわば弱いチームの問題点と強いチームの理由、そのどちらも語ることができるのだ。そういう意味では受け入れる側のヤクルトの選手たちも話を聞きやすいという面は確実にあるだろう。

 そして、内川にとってもヤクルトという球団がプラスということもある。野村監督時代から“再生工場”と言われていたが、伝統的に他球団から移籍してきた選手が復活するケースが非常に多いのだ。過去には小早川毅彦(元広島)、鈴木健(元西武)、現役では坂口智隆もヤクルト移籍後に鮮やかな復活を見せている。以前、選手引退後にコーチ、二軍監督、スカウトなどを務めた八重樫幸雄氏に話を聞いた時も、伝統的にファミリー体質で他球団から移籍してきた選手にも優しいというのは球団の特徴としてあると話していた。そのような環境はなかなか他の球団にはないものと言えるだろう。

 もちろん戦力としても期待できる可能性は高い。ここ数年は成績を落としているとはいえ、昨年も一軍で128安打をマークしており、ファーストの守備率は1.000でゴールデングラブ賞も獲得している。打つだけでなく、守備力も健在というのは頼もしい限りだ。今年のウエスタンリーグの成績を見ても出場試合数は42試合と少ないながらも、打率.327の成績を残しており、二軍レベルでは格の違いを見せつけている。スタメン出場だけでなく、代打の切り札としても期待できるだろう。

 しかし、その一方でマイナス面もないわけではない。最大の懸念点は内川の加入によってチームの世代交代が遅れるという点だ。ただでさえ現在のチームにはベテランの野手が非常に多い状況で、以下のような顔ぶれが控えている(年齢は2021年の満年齢)。

捕手:嶋基宏(37歳)
内野手:川端慎吾(34歳)、荒木貴裕(34歳)
外野手:青木宣親(39歳)、雄平(37歳)、坂口智隆(37歳)

 ここに来年39歳となる内川が加わることになると、34歳以上の野手は7人を数えることになる。もちろん全員が揃って出場するような機会は多くないだろうが、一軍の枠の多くをベテランが占めることで若手の抜擢が遅れることに繋がりかねない。また、ヤクルト最大の弱点は投手陣であり、支配下選手の枠を内川で一つ使うことによって、投手の補強が一人できなくなるという点もあるのだ。

 チームが低迷すると、どうしても目先の勝利を求めて実績のある選手や外国人選手に頼ろうとするケースが多いが、それでは長く強さを維持できないことは過去の例からも明らかである。パ・リーグで最下位に沈むオリックスが三軍制を導入し、育成選手を多く抱えて若手の底上げを目指そうとしているのと比べると、いささか近視眼的と言わざるを得ない。ただ、冒頭でも触れたように内川の持つ経験は大きな財産であることは間違いない。それを果たしてヤクルトがどう生かすのか。その点も大きな注目ポイントと言えそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月4日掲載

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