「文大統領」の「厳正に捜査せよ」は嘘…その嘘を信じた「韓国の検事総長」の受難

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韓国憲政史上初、総長の職務停止

 文在寅大統領は昨年7月、韓国の捜査機関トップである検事総長を任命したとき、「青瓦台(大統領府)であれ、政権与党であれ、生きている権力に不正があれば、厳正に捜査せよ」と訓示を垂れていた。普段から、二枚舌どころか何枚舌があるんだとばかりに重なった大統領の嘘の中でも、これはとりわけインパクトの強いものとなったのである。

 大統領が訓示を垂れた相手は尹錫悦(ユン・ソギョル)検事総長。現在、韓国の次期大統領の野党側有力候補として名が挙がっている人物だ。

 尹錫悦総長は「現政権でも顔色を窺うことなく捜査せよ」という文大統領の指示どおり、その側近である“タマネギ男”こと曺国(チョ・グク) 前法務部長官と青瓦台出身参謀の不正を摘発・起訴した。

 しかし、それがくすぶって、権力闘争の火種となっているのだ。

「文大統領の弾劾」まで取り沙汰されるほど、韓国の政界を揺るがしている尹総長をめぐる論争とは果たして何なのか。

 11月24日午後、秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官は尹錫悦総長の職務を停止すると発表した。

 現職総長の職務停止は、もちろん韓国憲政史上初めてのことだ。

 秋長官は、尹総長が有名な放送局の社長と不適切な会合を行い、曺国前長官事件の裁判官に対する不法査察、政治的中立の損傷など、権限を濫用し、職務上の義務に違反したと主張した。

 尹総長は秋長官の主張は虚偽だと反論し、「違法・不当な処分には、最後まで法的に対応する」と言い返している。

 国家行政序列上、法務部長官は検事総長より上位だが、その指揮・監督権は制限され、検事の独立性を尊重しなければならないのは誰もが知ることだ。

 法務部長官から足蹴にされ、25日から検察庁で勤務できなくなった検事総長は怒り心頭に発しているようだ。

共に民主党から「正義の検事」と呼ばれた総長

 駆け足ながら、彼の経歴を振り返っておこう。

 1994年から検事として活動し、韓国で1軍検事と呼ばれるソウル中央地方検察庁の部長検事の座に上った尹錫悦検事は2013年、李明博(イ・ミョンバク)政権下で国家情報院が行った世論操作事件を捜査していた。

 しかし、李元大統領と同じ政党の朴槿恵政府から圧力を受け、急遽捜査を中断。尹検事は国会議員の“圧力”で起訴できなかったと暴露し、「私は組織に忠誠を尽くし、人には忠誠を尽くさない」と特定の権力者の圧力に屈服しない考えを述べた。

 朴槿恵政府から目を付けられた尹検事は、地方に左遷されたが、当時野党で、現在与党の共に民主党から“激励”を受けている。

 そして尹検事は2016年末、朴槿恵前大統領のいわゆる“崔順実ゲート事件”が韓国社会を揺るがすと、共に民主党の推薦で“特別検事”に任命され、ソウルに復帰した。

 尹検事は捜査陣を率いて、崔順実氏と李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長、さらに、朴槿恵前大統領など、この事件に関わるほとんどの容疑者を起訴に導いた。

 文大統領は就任直後の2017年5月、尹錫悦検事をソウル中央地方検察庁長に任命。これは、地方の2軍でくすぶっていたベテラン選手をソウル1軍の監督職に昇進させる破格の人事だった。

 その期待に応えるべく尹検事は、文在寅大統領の“仇敵”だった李明博元大統領を逮捕・起訴するなど、文在寅政府と与党・共に民主党が拍手喝采する捜査を積極的に行った。

 青瓦台と与党は尹検事を支持し、文大統領は昨年6月、検事総長に任命したのである。

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