DeNA「佐野恵太」は超異例、ドラフト9位入団からいきなり首位打者争いをするまで

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 プロ野球のペナントレースも最終盤に差し掛かっているが、優勝争いとともに注目されるのが個人タイトル争いだ。主要なタイトルでは菅野智之(巨人)の最多勝と山本由伸(オリックス)の最優秀防御率は獲得が濃厚な状態だが、他の部門では最後まで目が離せない状況が続いている。そんな中で、驚きの活躍を見せているのが、セ・リーグの首位打者争いを繰り広げてきた佐野恵太(DeNA)だ。残念ながら、10月25日の広島戦で左肩を負傷し、今季中の復帰が絶望的と報じられたとはいえ、打率.328をキープしており、初タイトル獲得の可能性は十分残されている。佐野がこのまま首位打者となれば、どれほど異例なことなのか、これまでの経歴を振り返りながら探ってみたい。

 佐野は岡山県出身で、高校は広島の名門である広陵に進学。下級生の頃は内野を守り、最終学年では捕手としてプレーしているが当時は全国的に注目されるような選手ではなく、甲子園にも出場することはできなかった。明治大では3年秋にレギュラーとなり、一塁手として2度のベストナインを獲得。4年時には春秋連続で打率3割をクリアしている。

 しかし、当時もドラフト候補として高い評価を受けていたわけではない。リーグ戦通算成績は63試合に出場して54安打、6本塁打、33打点、打率.270とまずまずの成績ではあるが、何よりも大きかったのがファーストの選手ということである。プロではどうしても外国人選手が守ることが多いポジションであり、よほどの打力がなければ高く評価されることはない。

 ちなみに、同じ東京六大学出身の一塁手で2005年に希望枠(当時あった逆指名制度)で入団した武内晋一(元ヤクルト)のリーグ戦通算成績は97試合に出場して102安打、12本塁打、73打点、打率.296というものである。そのような事情もあって最後まで指名候補としてリストアップしている球団は少なく、また社会人からは好条件で内定も出ていたとのことだったが、それでも佐野はプロ入りを希望。最終的にはDeNAが9位という順位で指名したが、これはこの年に支配下の選手として指名された87人の中で後ろから数えて4番目に低い評価というものだった。

 言ってみれば、ギリギリでのプロ入りだったが、佐野は1年目からその期待の低さを覆すプレーを見せる。キャンプでは持ち味である打撃をアピールして開幕一軍に抜擢。4月には早くもスタメン出場を果たしている。結局、この年の一軍での成績は芳しいものではなかったが、二軍では11本塁打を放つ活躍を見せ、オフに行われたアジアウインターリーグではイースタンリーグの4番として出場し大会MVPにも輝いている。

 翌2018年は73試合に出場して29安打、昨年は89試合に出場して59安打と成績を伸ばし、今シーズンからはメジャーリーグに移籍した筒香嘉智に代わって4番とキャプテンも任せられている。ただ、成績を残しているとは言っても、“ドラフト9位の選手にしては”という但し書きがつくものであり、シーズン前には佐野が4番という構想に対する疑問の声も少なくなかった。DeNAファンであってもまさか首位打者争いを演じるとは思っていなかっただろう。

 過去10年間に首位打者を獲得した選手を見ても、タイトルを獲得した前年までにシーズン100試合に出場したことがない選手は2012年の角中勝也(ロッテ)だけである。角中も独立リーグ出身ということでかなり異例の首位打者獲得ではあったが、佐野もそれに近いインパクトがあることは間違いないだろう。

 もうひとつ珍しい点としては、結果を残しての4番ではなく、先にポジションを与えたということだ。プロ入り後、順調に成績を伸ばしていたとはいえ、規定打席に到達したことのない選手に4番を任せるというのはかなり勇気が要ることである。最悪の場合、そのプレッシャーに佐野自身が潰されてしまうことも十分に考えられたはずである。期待に応えてみせた佐野が立派なのはもちろんだが、抜擢したラミレス監督の決断も見事だったと言える。タイトル獲得は最後まで予断を許さない状況ではあるが、歴史に残る首位打者争いであることは間違いないだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月14日掲載

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