ドラマ「極主夫道」原作との相違が残念な点も 滝藤賢一の大胸筋は眼福

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 かなり前から日テレと玉木宏が頑張って宣伝しまくっていた割に、世間は微妙な反応。「極主夫道」である。

 原作の漫画が気になって、現物を横流ししてもらった(なぜなら版元新潮社!)ところ、意外に面白かった。家事全般あるいは生活の知恵に極道用語を用いることで起こる「アンジャッシュ」的ドタバタ劇、元極道の主人公・不死身の龍の「すてきな奥さん」張りの主夫っぷり。特に好きなのは、余白や余韻で魅せる最後のコマ。無音無声のコマによるシュールなオチが好みだし、「パリン」「ファサ」「ザゥ」「カハッ」などの擬音だけで「いとあわれ」や「いとおかし」を表現する回も秀逸。単行本ではさらにもう1点の絵が追加、二段構えのオチが完成して、じわっと可笑しい。大人の漫画だ。

 これがドラマになると、エピソードをつなぎ合わせなければいけない。余韻や余白が失われ、表層の笑いだけに特化されちゃう。そこが惜しいというか悔しい。

 そして、なぜか子供がいる。原作では龍は嫁の美久と銀(猫)と暮らしているはずが、ドラマでは結構大きな娘(白鳥玉季)もいる。白鳥は好きな女優だが、美久を演じる若い川口春奈にこんな大きな娘がいるってのはどういうことかいな、と。「子供から大人まで楽しめるアットホーム」というぬるま湯に浸からせると、ろくなことにならない。大人が考える「子供のいる世界」は全体的に幼稚と偽善と予定調和に向かってしまう。何より極道の在り方も変わって、幅を狭めちゃうよね。

 もちろんそこには日テレの狙いがあって、原作ファンを唸らせるだけの展開を今後用意しているのだろう。ただただ「専業主夫なら子供はマスト」みたいな古い家族観で入れただけだとしたら、その感性を疑うよ。

 振り返ってみれば、日テレは「ヤクザコメディ」が得意だ。仲間由紀恵の「ごくせん」、長瀬智也の「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」、松田翔太と高橋克実の「ドン★キホーテ」。☆が多い。つのだ☆ひろか。漫☆画太郎か。ともかく、世間では蛇蝎の如く嫌われている反社会的勢力の生き様をコメディに仕立て上げ、親近感をもたせるのがうまい。いや、もたせちゃダメでしょ。

 ま、でも玉木が楽しそうだし。世間は「玉木宏の黒歴史」と密かに思っていても、本人が「金字塔」と思っていれば。希望や意図や戦略があるのならよし。日テレドラマではコスプレする役が多い稲森いずみも、ヤクザの姐さんを実にのびのびと楽しげに演じている。

 玉木のライバル役・剛拳の虎こと虎二郎を演じる滝藤賢一は、大胸筋が仕上がっていてびっくり。ルパン三世みたいな細身の印象だったのに。まさかこの役のために? 大河では無欲の僧侶から善意の将軍という役どころだから、大胸筋はいらん気もするしな。眼福。

 一部では実写PVのほうを絶賛する声も。主演・監督は声だけで数百万人がピンとくる声優の津田健次郎。朝ドラの犬井さんね。確かに原作を忠実に再現。金と余計な人間が絡んで邪(よこしま)になるとこうなる、というのがドラマ版だと覚えておこう。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年11月12日号掲載

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