かつて韓国の嘘を暴いたバイデン 「恐中病と不実」を思い出すか

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日本よりも重要な同盟国に

――当時から、世の中を見誤っていたのですね、韓国人は。

鈴置:李明博(イ・ミョンバク)政権(2008年2月―2013年2月)の半ばあたりから韓国人は「米中二股をやっても米国から怒られない」と信じ込んでいました。

 経済力の伸長とともに国際的な地位が急上昇したため、1999年にはG20(20か国・地域)に開設メンバーとして参加。2010年には、日本よりも先に首脳会議を主催しました。

 2009年9月、日本で民主党政権が発足し、米国との関係を決定的に悪化させたことも誤解を加速しました。韓国人は「米国にとって我が国がアジアでのもっとも重要な同盟国になった」と考えたのです。

 バイデン発言に韓国人が怒ったのは、それが「我が国は日本よりも大事な同盟国」という幻想を打ち砕いたからでもあります。もし、米国が韓国の方が大事にするのなら「慰安婦の言い訳」を聞いてくれたはずだからです。

 2016年11月23日に締結された日韓GSOMIA。退陣運動が燃え盛ったことが朴槿恵大統領の背中を押しました。ただそれまで、バイデン発言が韓国の言い逃れの道を絶っていたのも確かです。

離婚を誘発した調停委員

――業績に乏しい、と批判されるバイデン氏。「日韓がらみ」ではそれなりに仕事をしていたのですね。

鈴置:2015年12月25日の日韓慰安婦合意の「保証人」も務めました。米外交誌『Atlantic』のインタビュー「The Geopolitical Therapist」(2016年8月26日)記事で以下のように語っています。

・Or, you know, [Korean President] Park [Geun-hye] and [Japanese Prime Minister Shinzo] Abe. I go to see Abe and he says to me, “Will you help me with Park?” And I call her and say, “Will you do this?” And I don’t negotiate the agreement, but the end result was, because I had a personal relationship with both of them and they trusted me, I could be an interlocutor, that was more like a divorce counselor, putting a marriage back together.

「安倍に会ったら『朴との関係を助けて欲しい』と言われた」「そこで朴に『こうするつもりはないか』と電話した」「自分は結婚生活を元に戻す調停委員の役割を果たした」――というわけです。

 もっとも慰安婦合意は韓国によっていとも簡単に破られました。これもあって日韓関係は極度に悪化し、日本人は「韓国は約束をかわせない国」と確信しました。バイデン氏は「結婚生活を基に戻す調停委員」ではなく、「離婚を誘発した調停委員」になったわけです。

勇気百倍、新たな屁理屈を発動

――バイデン大統領が誕生すれば、韓国にとって悪材料ですね。

鈴置:確かにバイデン氏は「平然と約束を破り、堂々と嘘を言う韓国」を身をもって知りました。でも、そんなことを気にする韓国人ではありません。また、新たな屁理屈を考え出すと思います。

 そもそも、バイデン氏は物忘れが激しくなっています。選挙演説でも自分が副大統領として仕えたオバマ大統領の名前を思い出せませんでした。トランプ氏を「ジョージ」と呼びました。G・ブッシュ(George W. Bush)元大統領と勘違いしたようです。

 韓国には朗報も飛び込んできました。選挙戦の終盤にバイデン氏が聯合ニュースに「【全文】『韓国は強力な同盟』…バイデン米大統領候補、聯合ニュースに寄稿」(10月30日、韓国語)を寄せました。韓国系米国人の支持を得るためです。

 見出しから分かるように、韓国を「強力な同盟国」と呼んでくれた。そのうえ「在韓米軍撤収カードを使って脅したりしない」とまで約束してくれたのです。離米従中に動く韓国を切り捨てかねないトランプ大統領と比べ、何とやさしいことか。

 勇気百倍した韓国人が、またせっせと「慰安婦」や「徴用工」を米国で訴える姿を見ることになるのかもしれません。

 政府系紙、ハンギョレは「日本よりも先に米大統領当選者と接触しようと韓国政府が躍起だ」と報じています。「菅首相より先に当選者にコンタクトを…米大統領選に奔走する韓国外交部」(11月3日、日本語版)で読めます。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月3日掲載

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