『鬼滅の刃』劇場版が大ヒット、幅広いファンを生んだ巧妙な“仕掛け”とは

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 10月16日に公開された『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の勢いが止まらない。公開から3日で興行収入は46億円を突破し、観客動員数は340万人を超えた。この数字について米ニューヨークタイムズは“公開国は日本のみにもかかわらず、同時期に全世界で公開された他の映画作品の興収を超えた”と報じてもいる。

 国民的熱狂を生んだ背景には、老若男女を問わない幅広いファン層の存在がある。アニメジャーナリストの数土直志氏がその“仕掛け”を読み解く。

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 『鬼滅の刃(きめつのやいば)』人気が衰えを見せない。原作は16年初めから『週刊少年ジャンプ』(集英社)で吾峠呼世晴(ごとうげ こよはる)が連載していた伝奇アクションマンガだが、19年4月にアニメ化されてから人気に火がついた。大正時代を舞台に、主人公の少年・竈門炭治郎(かまど たんじろう)が鬼に殺された家族の敵を打ち、鬼になった妹を人間に戻すために戦いに身を投じていくというストーリーだ。

 半年にわたるアニメ放送を受け、作品は社会現象化。コミックスの累計発行部数は8000万部を超え、店頭販売の品切れ続出がニュースにもなった。19年9月28日にアニメ最終回((TOKYO MXほか)が放送されておよそ1年以上が経った今、ブームは再加速している。

アニメ終了→原作終了の“企み”

 人気絶頂の今年5月に、マンガ連載を完結させたことはファンを驚かせた。宿敵である鬼舞辻無惨に対して炭治郎らが総力戦で挑み、物語は大団円を迎えたのだ。キャラクターたちの運命は決着、新たな出発も描かれ、ファンには大満足な結末だったに違いない。とはいえ連載はまだ4年余り。『ONE PIECE』や『名探偵コナン』のように、人気作品は20年以上連載が続くことも珍しくないマンガ業界では、大胆な幕引きといえた。ビジネス的な視点からは、もう少し連載を続けて作品を長く続けたほうが、利益も大きくなったのでないか。一方で、テレビシリーズから雑誌連載完結、このたびの劇場版公開との流れを見ると、作品展開はかなり周到に練られた節が窺われる。ここまでの大きさを想定していたか定かではないが、作品のヒットは単なる偶然とは思えない。

 アニメ化にあたり制作会社ufotableを起用した点からもそれはわかる。ufotableは若者に絶大な人気を持つ「Fate」シリーズの制作で知られるアニメスタジオである。圧倒的な作品のクオリティの高さゆえ制作本数が少なく、同社への発注自体が勝負作であったことを示している。当初からシリーズが深夜アニメで一般的な1クール(3ヵ月)でなく2クール(半年)であったことも、予算が大きく、万全な体制でのアニメ化が目指したことが判る。

 アニメ終了からそれほど間を置かず、原作が終わった点も、関係者の準備が見て取れる。今回『鬼滅の刃』はテレビ、劇場のふたつの映像企画を並行させていたわけだが、これは数年がかりの長期プロジェクトになる。そのタイミングで原作連載が終わるとなれば、企画が進む段階で、原作の方向性は共有されていなければならない。つまり『鬼滅の刃』はアニメ人気の中で突然終了したのではなく、むしろこれを前提としたアニメ化であったわけだ。

原作とアニメの難しい関係

 通常、マンガを原作にするアニメは、原作人気に頼ることが多いが、その関係は複雑である。アニメ終了と原作の連載終了との結末をどうつけるかが難しいからだ。アニメの放送が長引き、ストーリーが原作に追いつく場合には、アニメが原作の内容や展開から大きく変わる。エピソードの引き伸ばしや、原作にない、オリジナル展開をすることで放送の引き伸ばしを図るのだ。

 反対に、原作完結前にアニメの放送が終了することもある。アニメ版は、原作の話の途中で終わるわけだ。が、連載完結前にアニメが終わることは、あたかも連載までもが終わったかのような印象をファンに与えてしまう。ファンが興味を失い、作品そのものの話題性や露出が減ってしまうリスクをはらんでいる。原作が続いている状況では、なんとしてでも避けたい展開だ。

 その点、連載終了の目処が立ったところで『鬼滅の刃』をアニメ化したのは、人気を維持したままマンガとアニメの双方を終わらせる、理想的なやり方だった。

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