NHKがテレビ設置届け出の義務化を要望、「イラネッチケー」開発者はどう見たか?

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最高裁判決を無にする要望

 17年12月6日、NHKは受信料制度について、最高裁で「合憲」とのお墨付きを得た。05年度に69%にまで落ち込んだ支払率は、その判決のおかげで上昇し、19年度末には83%にまで達している。ちなみに19年度は、事業収入7384億円のうち、96%の7115億円が受信料だという。

 NHKはそれでも足りないというわけか。

「最高裁判決によって、NHKは嵩(かさ)にかかってきたように思います。その一端は、もしかすると私にもあるかもしれません」

 とは、受信料裁判で被告側代理人を務めた高池勝彦弁護士である。

「ただし、あの最高裁判決は相当無理をしたと思う。判決には受信料制度を合憲としつつも、原則として“NHKが受信設備設置者の理解が得られるように努め、これに応じて受信契約が締結されることにより運営されることが望ましい”としています。今回の要望はそれを否定することになる。経費削減のために訪問による営業をやめ、届け出義務にしたら、支払いの強制につながります。これだと、もはや税金に近い。これでは最高裁の努力を無にするようなものです」

 受信契約、受信料徴収のための訪問営業には、莫大な金がかかっている。19年度は759億円も費やしている。

「スクランブル放送にすればいいんです。受信料を支払わないものには見せなくすれば済む話です。それもせずに、届け出の義務化や、氏名照会をしたいというなら、まずは受信料支払いの義務化が明記されていない放送法を改正すべきです」

 高池弁護士は、NHKに負けっぱなしというわけではない。NHKだけが映らないテレビを自宅に設置した女性が訴えられた裁判でも、代理人を務めた。いわゆる“イラネッチケー”裁判で、6月26日、東京地裁で勝訴した。

 では、“イラネッチケー”開発に携わった、筑波大学システム情報工学研究科の掛谷英紀准教授はどう見ているだろうか。

「ぼくもスクランブル化が一番いいと思います。そもそもイラネッチケーを開発したのは、NHKの国会中継が公平中立に行われていなかったからです。番組を見た人だけがお金を払うという、至極簡単、最も公平な支払い方法だと思います」

 イラネッチケー開発の経緯については、デイリー新潮「受信料裁判でNHK敗訴 秘密兵器『イラネッチケー』を開発した筑波大准教授に聞く」(7月1日配信)に譲るとして、スクランブル化となれば、見られた番組には受信料が入るが、そうでなければ受信料は入らない。NHKも、視聴者が金を払ってでも見たいと思わせる番組作りをするはずだ。

「NHKにとっては、全員から一律に集めたほうが収入は大きいですからね。スクランブル化でも訪問営業は不要になって、759億円は浮くかもしれませんが、NHKはスクランブルのまま見られなくていいと考える人は相当数います。それに伴うNHKとの契約解除による減収は759億円を凌ぐでしょう。今回の要望は、どうすれば視聴者から黙って金を取れるかしか考えていないように思います」

 また、NHKの野望も見え隠れするという。

「将来、取りはぐれのないようにしたいのでしょう。受信料の義務化が進めば、テレビ離れが進むだけ。私の大学にもテレビを持たない学生が増えています。テレビはいらないという選択肢ができていますが、ネットにはつながっています。NHKは常時同時配信もスタートしましたからね、ゆくゆくはネットユーザーからの受信料強制徴収を考えているのだと思います」

 そのために、個人情報まで取ろうというワケか。

「そこまで始めたら、もはや公共放送ではなく、国営放送ですよね。そうなったら、NHK職員も公務員ですから、給料はずいぶん減ることになるでしょう」

 掛谷准教授は、こんな疑問を呈する。

「イラネッチケーをつけて、NHKが映らないテレビを設置しました、とNHKに届け出をしたら、どうなるのでしょうね」

 まず、NHKがやるべきことは、受信料月額35円(地上契約)の値下げなんてチンケなものではなく、大幅な引き下げである。ちなみにイラネッチケーの控訴審は、11月2日が口頭弁論期日だ。

週刊新潮WEB取材班

2020年10月23日掲載

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