名脇役「正名僕蔵」が躍動する「DIVER」 「福士蒼汰」は悪人役に見えないけど

  • ブックマーク

Advertisement

 いつかたっぷり描きたいと思っていた俳優、それが正名僕蔵(まさなぼくぞう)。度の強い眼鏡のせいでつぶらな瞳、頭頂から奏でるハイトーンボイス。太々しさと憎々しさの中に宿る知性と懐かしい昭和の香り。私だけじゃない。担当編集Aも正名僕蔵が好物。ふたりでドラマの話をしても、イケメン俳優に興味ゼロ、なぜか正名談義になる。

 朝ドラにも登場。ぼんやりふんわりしとった「エール」だが、峯村リエと梅沢昌代と正名の投入で、急に活気づいた(私が)。正名は主人公の作曲家(窪田正孝)に曲を依頼する映画会社の人だ。こだわりと美学の強い窪田に無茶ぶりを強いられ、飲み込むものの発狂寸前という役どころ。ドラマの主人公になる「先生」と呼ばれる人物の陰には、必ずこの手の苦労人がいるものだ。ため息、舌打ち、そして咆哮。音楽は門外漢でも、舌先三寸で乗り切ってきた正名の姿が可笑しいやら切ないやら。

 そんな朝を堪能していたが、火曜夜にも正名タイムが到来。「DIVER-特殊潜入班-」である。兵庫県警本部長(りょう)が密かに結成した潜入捜査官チームD班の暗躍を描く。メンバーは、窃盗と暴力が得意な悪人(福士蒼汰)、元海上自衛隊員(野村周平)、闇医者(片瀬那奈)、ハッカー(浜野謙太)、つまり警察官ではない。犯罪組織に潜入し、悪を元から絶つことが目的。D班をまとめるのが、組織犯罪対策課の刑事(安藤政信)。県警内では、りょうと安藤以外にD班を知る者はいない。で、我らが正名の役は安藤の上司。扇子パタパタ、上司に媚び、部下には皮肉……これは「はぐれ刑事純情派」の課長だ。島田順司演じる課長の匂いだ!

 もちろん正名もD班を知らない。知らないけれど、安藤のために動いてもくれる。上意下達の組織の中で、言葉の通じないクソ上司かと思いきや、第3話ではいい働きを見せたのだ(島田順司も人情派だったしな)。

 安藤が8年前に担当した殺人事件の被害者の夫(こういう役が最高にうまい近藤公園)が逆恨みの犯行を計画。闇サイトを利用し、懸賞金をかけ、裁判官や弁護士、8年前の事件関係者の家族を次々と誘拐させる。

 そんな中、のんきに湯を入れたカップ麺をすり足&へっぴり腰で運んでいる正名(もうこの時点でワクワク)。娘にも危機が迫っていると知った安藤が血相を変えて走り出す。当然正名にぶつかるわな。カップ麺を浴びて、食べ損ねる正名。

 これ、単なるお笑いポイントでは終わらない。この後、別の場面でカップ麺が活きてくる。食べ損ねたカップ麺をしっかりすするシーンもあれば、取り調べで熱々カップ麺を勧めるフリをして、容疑者にわざとぶっかけて落とす場面もある。カップ麺を通して、正名の人となりが見えてくるのである。つうか、小池さんか!

 正名の話で紙幅尽きたが、ゲストもいいし、本編も面白い。唯一の難点は福士が悪ぶるが悪人に見えない点。「悪を染み込ませろ」と野村に説教するセリフもあるが、「おまいう」感が半端ない。つかこうへいか蜷川幸雄に預けたかった人材第1位だ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2020年10月22日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。