トランプを支持する「Qアノン」とは何か 米国で陰謀論がはびこる理由

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 米大統領選が近づくにつれ、「Qアノン」の存在に注目が集まるようになっている。

 Qアノンとは過激な陰謀論を信奉するカルト集団のことである。2017年10月にハンドル名Qを名乗る人物が匿名画像掲示板4チャンネルに投稿した文章がきっかけとなって誕生した(アノンとはアノニマス【匿名】の意味である)とされており、SNS(交流サイト)とダークウェブ(匿名性の高い闇サイト)の中で急成長した存在である。

 Qアノンの支持者の多くは熱狂的なトランプのファンであり、「腐ったエリート」に猛反発している。彼らは「トランプ大統領は、米国を事実上支配する『ディープステート』という悪魔のような勢力を一掃できる唯一の希望である」と信じている。

 ディープステートはもともとウクライナやコロンビアなどに存在した、組織犯罪グループと結託した軍や治安機関などを意味する用語だったが、現在の米国では「政府のエリートと金融や産業界のトップが結託して、政治を陰で操り、私腹をこやしている」という文脈で使われることが多い。

 多くの米国民は、Qアノンはとるに足らない一派と捉え、その脅威を真剣に受けとめていないが、米連邦捜査局(FBI)は昨年、Qアノンについて「国内テロの脅威とみなすすべての要素がそろっている」と結論づけている。「11月の米大統領選で、Qアノン支持者にとっての救世主であるトランプ大統領が敗北すれば、彼らは暴動を起こし、米国は大きな危険にさらされる」と懸念する専門家もいる(9月18日付日本経済新聞)。

「人は孤立して不安な状態になると陰謀論を信じやすくなる」として、新型コロナウイルスのパンデミックをQアノンが急拡大した要因とする見方がある(10月11日付BUSINESSINSIDER)が、その背景には何があり、今後米国における陰謀論はどのような展開を示すのだろうか。

「連邦政府が裏で誰かに操られているという陰謀論は今後一層強まっていく」

 このように指摘するのは、米国の地政学者であり、『2020-2030 アメリカ大分断 危機の地政学』(早川書房)の著者ジョージ・フリードマン氏である。フリードマン氏は、1949年ハンガリーで生まれたが、共産主義政権の弾圧から逃れるため米国に移住した。ルイジアナ州立大学地政学研究センター所長などを経て、1996年に世界的なインテリジェンス企業「ストラトフォー」を創設した。同社は、政治・経済・安全保障に関わる独自の情報を各国の政治機関などに提供し、「影のCIA」の異名を持つ。

 フリードマン氏が、米国の現状の中で最も問題だと考えているのは連邦政府に蔓延しているテクノクラシーである。テクノクラシーという概念は20世紀初めに生まれたものだが、テクノクラート(特定の分野の専門知識を持つ人々)による支配のことを指す。

 テクノクラシーの強みは、イデオロギーや政治に無関心な専門家の手で政府が公正・中立に運営されることである。テクノクラートたちは「知性の力が世界を形作る」と信じており、すべての領域において効率性の向上を目指している。

 だが9・11同時多発テロは、連邦政府の運営に大きな悪影響を及ぼした。

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