「刑務所の”3密”は問題」受刑者が起こした訴訟 移動時のマスク禁止、消毒液も使えず…

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 コロナ禍で改めて思い知らされたのは、ウイルスが誰に対しても平等だということだ。金持ちにも貧乏人にも。そして、監獄で罪を贖(あがな)う者に対しても、である。

 大阪刑務所に収監中の受刑者が「命にかかわる」として、感染対策を求める訴えを大阪地裁堺支部に起こすと報じたのは、9月22日の朝日新聞である。それによると、提訴するのは、恐喝罪などで2015年に懲役8年の判決が確定した60代の受刑者。公判中に腎移植の手術を受けていることから、感染すれば重症化する可能性があるという。

 代理人の池田良太弁護士が言う。

「刑務所が十分な感染対策をとっていないのは、人身保護法に反しているというのが私たちの考えです。何しろ大阪刑務所は作業場でも十分な間隔を空けておらず、居室との往復の際にはマスク着用を禁じている。また消毒液も置いていない。受刑者がアルコールを飲んでしまうと警戒しているのです」

 そこで、法務省の矯正局に聞くと、感染対策は「矯正施設における新型コロナウイルス感染症感染防止対策ガイドライン」に沿って行われており、

「被収容者に対しては、新型コロナウイルス感染症の流行状況や処遇場面に応じマスクを着用させること」

 とし、また、

「手洗い等のほか消毒用アルコールによる手指の消毒を励行」

 しているとの答え。一方で、具体的な運用については統一的な指針を出しておらず、それぞれの施設に任せてあるという。つまり、刑務所によってさまざまなわけだが、命の危険に晒されているという大阪刑務所の受刑者の声は法廷に届くのだろうか。

 元東京高検検事の若狭勝弁護士によると、

「刑務所という場所は物品の持ち込みに対して相当警戒します。例えば紙だってホチキスで留めてあると全部外してしまいますからね。マスクも刑務官がよそ見している隙に受刑者が飲み込んで自殺を図るかもしれない。しかし、マスクをさせないことや消毒液がないことが人身保護法に反するのかどうか? もともと不当な身体拘束を禁じるための法律ですから、感染対策を求める裁判にそぐわないのではないでしょうか」

 そういえば、塀の外にも「3密」を禁じる法律はない。何でもかんでも訴えればいい、というものではないだろう。

週刊新潮 2020年10月8日号掲載

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