「禊」のツールとなった「第三者委員会」再考――八田進二(青山学院大学名誉教授)【佐藤優の頂上対決】

佐藤優 佐藤優の頂上対決 ビジネス 週刊新潮 2020年9月24日号掲載

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 企業や役所などで、不祥事が起きれば設置される「第三者委員会」。有識者や弁護士らが委員に名を連ね、結果も公表されるから、当然、きちんと真相究明がなされているものと思われてきた。だが実際は、それが疑惑追究の隠れ蓑となり、関係者が都合よく身の潔白を証明する道具と化しているという。

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佐藤 八田先生が4月に上梓された『「第三者委員会」の欺瞞』を非常に面白く拝読いたしました。「第三者委員会報告書格付け委員会」を作って報告書を評価していく、という発想が興味深いですね。

八田 不祥事が起きて第三者委員会が設置されると、どのメディアも「どこまで真相に迫れるか、注目される」式に原稿をまとめますが、それが実際にきちんと評価されることは滅多にないんですね。実は報告書は玉石混淆で、酷いものもたくさんあるというのが実態です。

佐藤 確かに第三者委員会の報告書を検証するという報道は、あまり見たことがない。

八田 そうした状況ですから、2014年に弁護士の久保利英明氏が中心になって、報告書の格付け委員会ができました。久保利氏が委員長となり、9名で構成されています。内訳は弁護士が5名、ジャーナリスト2名、法科大学院教授1名、そして会計のプロフェッショナルとして、唯一、私が名を連ねています。

佐藤 各人がAからD、Fの5段階評価を行い、Fは不合格と手厳しい。

八田 第三者委員会というやり方が定着し慣行になるなら、やはり信頼しうるもの、社会に求められるものにしていったほうがいいはずです。基本的に社外に公表されますから、公共財として信頼に足るものでなければなりません。

佐藤 この第三者委員会の仕組みは日本独自のものなのですね。

八田 はい。純然たるメイド・イン・ジャパンのスキームです。ルーツは不良債権問題で1997年に自己破産した山一證券の「社内調査委員会」です。簿外債務、すなわち損失隠しの実態究明を目的に、委員長には常務取締役が就き、社内7名、社外2名で構成されていました。その調査報告書の対外公表が前例のない試みだったのです。リスク管理の不在、先送り、隠蔽、責任回避、官との癒着などさまざまな実態を暴き出しました。

佐藤 必ずしも第三者の委員会ではないけれども、それに値する仕事をしたということですね。

八田 はい。十分に社会的意義を認識して調査していた。実はこの委員会に社外弁護士の一人として参加していたのは、私たち格付け委員会の副委員長を務める國廣正氏です。ここで一定の真相究明がなされたので、その後に企業で不祥事が起きると「問題の原因追究などは外部の第三者の手に委ねる」という手法が取られるようになっていきました。

佐藤 当時行われていたバブルの後始末は、自分たちの手に余るものも多かったでしょうからね。

八田 そして第三者委員会が一つのツールとして定着するのは、2011年に発覚したオリンパスの巨額損失隠し事件からです。この時、上場廃止寸前に追い詰められた同社に、東証(東京証券取引所)の意向に即して第三者委員会が発足し、その結果、上場廃止の危機が回避され、外資による買収も防ぎ、会社も再生しました。世界で大きなシェアを持つ内視鏡事業は、第三者委員会に守られたわけです。この時、東証がその仕組みにお墨付きを与えたことが大きい。

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