「戦闘機パイロットのクヒオ大佐」を名乗り、結婚詐欺を繰り返した生粋の日本人

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“500億円の財産を受け継ぐために2年以内に結婚しなくてはならない”

 クヒオ大佐が最後に逮捕されたのは、99年の事件だった。この時、取材に当たったジャーナリストの高山数生氏が解説する。

「被害者は当時33歳の女性で、クヒオ大佐は“500億円の財産を受け継ぐために2年以内に結婚しなくてはならない”と迫った。そして金を要求する段になると電話で“コソボで米軍の現金輸送車を誤爆してしまった。補償の関係で軍の金に手をつけてしまったので、何とか工面して欲しい”と懇願して来たというのです」

 後から分かったところでは、クヒオ大佐が戦闘機に搭乗している写真は、ミリタリーショップで購入したヘルメットやフライトスーツを着込んで展示物に乗り込んだ姿を写したもの。

また、電話の際は信憑性を高めるために、航空機の爆音を録音したテープを近くで再生していた。さらに、

「わざわざ“営舎からかけている”と前置きした上で、“ケネディJr.が亡くなったんだが、自分は彼から馬をもらっている。葬儀に出る必要があるので、金を用意してくれと頼んできたこともあったそうです」

 荒唐無稽の一言。

が、コソボ紛争もケネディJr.の飛行機事故も、この時期に起きた実際の出来事である。

どうやら、クヒオ大佐は新聞を眺めてネタ作りに励んでいたようだ。

こんな男に騙されるのも不思議に思えるが、とまれ、女性にすれば心も身体も許した仲。求められるまま、ずるずる600万を渡したのである。

10度目の逮捕で、懲役5年の実刑判決が言い渡された

 クヒオ大佐のウソは必ずバレる。

約束した結婚の日が近づくと、彼は決まって姿を消すからだ。この時も、急に連絡が取れなくなって騙されたことに気づいた女性は、ほどなく警視庁に被害届を出した。高山氏が続ける。

「99年の9月30日、クヒオ大佐は詐欺容疑で逮捕されました。女性が無心されていた金が用意できたと、彼を自宅に呼び出したのです。予め警察にも伝えてあり、何も知らないクヒオ大佐が午後1時頃に姿を現すや、すかさず警察が踏み込んだわけですが、その際、刑事の1人が“警察だ。どういうことか分かるな”と言うと、”あ、分かりました。抵抗しませんから”と素直に手錠をかけられた。しおらしく連行されるクヒオ大佐に、女性が“どんな思いでお金を作ったと思ってるの!”と罵声を浴びせても無反応。まさに、『クヒオ大佐劇場」に幕が下りた瞬間でした」

 これがクヒオ大佐の10度目の逮捕で、懲役5年の実刑判決が言い渡された。

過去のクヒオ大佐の公判をつぶさに取材し、09年に公開された映画『クヒオ大佐』の原作を書いた作家の吉田和正氏も苦笑いで述懐する。

「クヒオ大佐には、不思議な魅力があるんですよ。決して許されることではありませんが、彼の詐欺は悪質さより滑稽さが先に立つ。公判では常に、“受け取った金はセックスの対価”と主張してきました。彼にしてみれば騙したのではなく、一緒に『クヒオ大佐ごっこ』を楽しんだだけ。お金もその過程で貰ったものだというわけです。罪悪感など毛ほどもなかったでしょう」

 実は、北海道出身の生粋の日本人。父親は国鉄職員だった。道化に徹した人生も、存命なら古希を越えて8年のはずである。

週刊新潮WEB取材班

2020年9月22日掲載

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