「超巨大台風」が東京を直撃した場合「23区のうち17区が浸水」 専門家が警鐘

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近年台風が「巨大化」

 今回はたいしたことがなかったからと侮って、次に備えを怠れば自然から手痛いしっぺ返しを食らう。

 油断は禁物と、森田氏は警鐘を鳴らすのだ。

「近年の傾向で、日本を襲う北西太平洋の台風が減った代わりに、今回のように一つ一つの規模が巨大化しています。数が少ない分、台風が発生すると動力源になる海上の水蒸気を総取りにして、さらにパワフルになるのです。これは地球温暖化の影響もあって、海面温度が高いので水分が蒸発して水蒸気が発生しやすいため。加えて水深50メートルくらいまでの水温も例年に比べて高いので、海が暖まり台風の勢力が保たれやすい。気象庁によれば、9月下旬まで海水温が高い状況が続くとされているので、まだまだ台風シーズンは終わっていないと見るべきです」

 事実、伊勢湾台風や観測史上最大の第2室戸台風が発生した際も海水温が高かったと聞けば、今季はまだ「巨大台風」が襲来する恐れがあるというのだ。

 気象学が専門で京都大学防災研究所准教授の竹見哲也氏の解説を聞こう。

「例年は7月と8月にも台風がやってくるのに、今年はまだ10個だけしか発生していません。本来、台風が通過すると海水が混ぜられて水温が一時的に低下するのですが、太平洋沿岸の海水温は30度を超えて平年より2度も高い。昨年、千葉など房総半島に被害を与えた台風15号や19号のような強い勢力の台風が、今後もやって来る可能性は十分あると思います」

関東へ直撃する可能性が

 そして気になる台風の進路については、森田氏がこんな懸念を口にする。

「今回の台風10号は太平洋高気圧が強くて東進できず、九州に向かうルートを取りましたが、その前の9号は東シナ海を北上して沖縄の西側を通過、さらに前の8号は中国大陸を襲った。つまり秋に向けて太平洋高気圧の勢力が弱まるにつれ、少しずつ東に進路がズレている。そうなると、来るべき台風11号、12号は当然、より東寄りのルートを取っても不思議ではありません。東海、関東へと直撃してもおかしくないのです」

 台風10号然り、狂暴化した「伊勢湾級」の台風が首都圏を直撃すれば、いったいどうなってしまうのか。

 思い起こせば、昨年に関東へと上陸したモンスター台風は未曾有の被害をもたらした。最大瞬間風速57・5メートル(千葉県内観測史上1位)の強風で、千葉のゴルフ練習場では鉄柱が倒壊。多摩川流域が氾濫したり、武蔵小杉のタワーマンションが浸水したことは記憶に新しい。

250万人が被災

「東京は水害に弱い都市ですからね。49年のキティ台風では東京湾で高潮が発生して、約4千戸の住宅が全壊してしまいました」

とは、『首都水没』の著者で、元東京都江戸川区土木部長の土屋信行氏である。

「伊勢湾台風でも発生した高潮は、強風で海水が沿岸に向かうことで水位が上昇し、それに満潮が重なることで引き起こされます。18年3月に東京都は、過去最大規模の台風(910hPa)を想定した高潮浸水想定区域図を公表しているのです」

 想定図は、東京港に最大の高潮が襲来し、荒川や隅田川などに海水が流れ込むのと同時に、大雨で堤防が同時決壊した場合を織り込んだものだという。

「超大型台風の直撃では、東京23区のうち17区で浸水被害が生じるとしています。被害は都内にとどまらず、高潮は埼玉県南部まで遡上して、川口市、蕨市、戸田市、越谷市、草加市、三郷市など広範囲に及ぶ。浸水の深さは、古くから町工場が多くて工業用水のくみ上げなどで地盤沈下が進み、“海抜ゼロ地帯”と呼ばれる江東5区(江東区、江戸川区、葛飾区、墨田区、足立区)で最大約10メートルにも達し、排水には1週間以上の時間を要すると見込まれます」

 木造住宅なら高潮の直撃と強風のダブルパンチを受け、倒壊や流失は免れまい。江東5区に住む250万人が“流浪の民”と化してしまう恐れもあるのだ。

週刊新潮 2020年9月17日号掲載

特集「今後は地獄が日常の光景に…『“伊勢湾級”台風』が首都圏直撃ならどうなる!?」より

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