「少年法“微”改正」に猛反対 「日弁連」「朝日新聞」「毎日新聞」の加害者保護

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 なぜ、「彼」を野に放ってしまったのか――。8月28日に起きた福岡「美女殺人」を考えるにつけ、その疑問は日増しに膨らむばかりである。

「少年院って一体、どうなっているんだろうと思ってしまいます」

 と言うのは、少年犯罪被害当事者の会の武るり子・代表。武代表は、24年前、16歳の少年に長男を殺された遺族である。

「普段、“少年院の教育は素晴らしい”と言っている人たちは、あれを見てどう思うのでしょうか。ぜひ聞いてみたいですよ……」

 少年院から仮退院してわずか2日後。加害者・中学3年生の「少年A」は、ショッピングモールで偶然見かけた被害者・吉松弥里さん(21)にわいせつ目的で近付いた。が、抵抗されたため、予め準備しておいた包丁で滅多刺しに。更に、逃亡を図り、「人質」として6歳の少女にも刃を向けた――現在、判明している事実だけ見ても、短絡、衝動的な犯行の一方で、計画性と悪賢さも見て取れる。

 なぜ保護当局は、この少年を「更生した」と判断したのか。少年院のあり方、つまり少年法の存在意義が問われることは間違いなく、これぞ以下に述べる、現在の法改正の方向を嘲笑うかの事件なのである。

 この7月に自公両党が「与党案」を出したのに続き、8月、法務省の諮問機関「法制審議会」が要綱を提示した、少年法の改正論議。これを受け、次の通常国会にも改正案は提出、可決される見通しとなっている。

「改正」のポイントは、「少年法の適用年齢は20歳のまま引き下げない」「18~19歳の少年の事件はこれまで通り、全件家庭裁判所に送る」点は従来と変わらないまま。一方で、18~19歳が起こした事件について、「家裁から検察に送る『逆送』の範囲を、『1年以上の罪』に拡大する」「これまで禁止されていた『推知報道』(人物が特定できるような報道)を、起訴後に限り解禁する」といった手直しも示された。これを、

「進歩した面はありますが、それ以上に残念な面が多い」

 とは、法制審のメンバーでもある前出・武代表。

 そもそも今回の改正の出発点は、選挙権付与や、民法上の成年年齢が18歳以上に引き下げられたのに伴い、少年法の適用年齢もそれに合わせ、権利と責任のバランスを取ることだった。しかし、その肝の部分は骨抜きにされ、「厳罰化」に留まるだけ。「改正」というより、「“微”改正」といった評価が妥当である。

「日常では大人の権利が与えられるのに、罪を犯した時だけは相変わらず『少年』では納得できないし、彼らにも誤ったメッセージを発してしまう」(同)

 戦後70年以上、動かなかった対象年齢に手を付ける、絶好の機会を逸したのである。

半世紀前の…

 この「骨抜き」に反対勢力の力が大きかったことは、これまでにも報じてきた。

 政界では公明党、法曹界では日弁連、裁判官や少年院職員OB、メディアでは朝日新聞、毎日新聞……といったところ。そして、その中の一部は、今回の改正にすら反対の意思を示しているのだから、彼らの「犯罪少年」愛護の精神は留まるところを知らない。

 まずは、

〈(逆送拡大は)少年法の趣旨を没却し、その機能を大きく後退させるものであり、到底許容できない〉

 と、8月7日、「会長声明」を出したのは、日本弁護士連合会。

〈(推知報道の解禁は)未成熟で可塑性を有する者の社会復帰を極めて困難にするものであって、許容することはできない〉と述べるが、許容できないのは、加害者の所業の方であろう。

 次いで、朝日新聞も8月8日の社説で、〈少年法見直し 立ち直り支える内容か〉と題してこう記している。〈厳罰化が真に社会のためになるか、慎重な検討が必要だ〉〈(少年)法が掲げる健全育成の理念を実現することが大切だ〉。が、「必要だ」「大切だ」なんて誰でも言える。

 毎日新聞も、8月5日の社説で〈安易な厳罰化を懸念する〉と主張。

 それに加えて、8月30日のコラム「余録」では、筑豊炭鉱で育つ子どもが書いた詩「どろぼう」を引用し、反対の姿勢を取っている。しかし、その詩は、〈父ちゃん 何し僕をどろぼうに行かするトか〉で始まるもの。貧苦に喘ぐ炭鉱労働者の父に芋や銅線を盗んでこい、と命じられ、それを嘆く息子が心情を吐露したものだ。これを受けて筆者は〈家庭環境が事件につながるケースは今も多い〉〈教育の視点が軽視されれば更生の機会が奪われる〉と論じる。確かに現行の少年法はこうした境遇の子どもを想定して作られた。しかし、それから70年以上が経過。ここ数十年で頻発した凶悪な少年事件は、その範疇を超えている。ゆえに改正議論が起こったのではないか。なぜ、半世紀以上前の犯罪事例を持ち出す前に、同じ福岡で「今」起きている少年事件について触れないのか。

 少年犯罪を数多く取材してきた、ノンフィクションライターの藤井誠二氏は言う。

「彼らは、少年法の枠組みに過剰な期待を抱き過ぎなんです。少年は刑務所に入れ、成人と同じ処遇をするより、少年院に入れて、早期に社会に戻す方が更生できる、と」

 彼らの主張が必ずしもあたらないことは、今回の事件で、遡ればまた、出所した後、遺族の感情を逆なでする著書を記した神戸・少年Aの例でも明らかになった。

「朝日や毎日でも、現場の記者はそのおかしさに気付いているはず。加害者ばかりで被害者に向き合わない姿勢の矛盾点を、世間はとっくにわかっています。現実から目をそらしているだけとしか思えません」(同)

 そして、そうした事情は日弁連についても同じようで、

「あの声明は、現場の多くの弁護士の思いとは異なると思います」

 と述べるのは『日弁連という病』の共著を持つ、北村晴男・弁護士。

「死刑廃止論議も同じですが、日弁連の執行部は加害者の人権重視の余り、被害者や遺族の痛みや心情に思いが及ばないのです。日弁連はこれまで従軍慰安婦問題など、数多くの声明を出していますが、そのほとんどが勝手に行われている話。ごく一部のイデオロギーに塗(まみ)れた人たちの声が、弁護士の総意のように扱われている状況には、強い怒りを感じますね」

 当の日弁連に改めて見解を尋ねたが、回答なし。朝日、毎日は「社説で示した通り」(朝日)、「家庭環境が事件につながるケースは今も多く、現在にも通底する問題」(毎日)と反論するが、前出・武代表が改めて言う。

「法制審では、反対派の先生が入れ替わり立ち替わり、少年法の素晴らしさを述べる。でも、ではなぜ私たち被害者の悲劇は終わらないのでしょうか。新聞の反対意見については、“いつまでそんなことを言っているの”としか思えません」

 被害者を傷つけているのは、果たして加害少年だけなのだろうか。

週刊新潮 2020年9月17日号掲載

特集「福岡美女殺人の折も折『少年法“微”改正』にも猛反対の『日弁連』『朝日新聞』『毎日新聞』」より

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