両陛下がコロナ禍に“沈黙”される理由 欧州王室の対応と比較

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〈天皇・皇后両陛下のお立場が、あまりに目立たなくなってはいまいか……〉

 疫病下に菊のカーテンの向こう側がどうなっているか、その詳細は知る由もないが、目下、国民を代表して皇室を取材する記者や両陛下の周囲では、こんな懸念が囁かれているという。

 宮内庁担当記者が言う。

「現在、両陛下は赤坂御所において、感染症をはじめ福祉や教育、経済関連の専門家を招き、積極的にご進講を受けられています。ですが、国民への“発信”となると決して十分とは言い難く、何よりお出ましが取り止めとなって肉声が伝わらないのが大きい。御代替わりからまだ1年余りだというのに、この状況は残念でなりません」

 両陛下の主たる地方ご訪問である「四大行幸啓」(全国植樹祭・国民体育大会・全国豊かな海づくり大会・国民文化祭)は今年、すべて取りやめに。秋の園遊会も中止が決まり、今後の大きなご出席行事は終戦記念日の「全国戦没者追悼式」のみとなる見通しだ。未曾有の猛威を振るう疫病が相手とはいえ、華々しく迎えた令和の新時代にあって、両陛下のお姿が禍(わざわい)のために霞んでしまうようなことになれば、まさしく本末転倒であろう。

 宮内庁のホームページには現在、「新型コロナウイルスに関するご発言」として、4月10日の尾身茂・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長(当時)のご進講、そして5月20日の日本赤十字社社長のご進講において、天皇陛下や雅子皇后が最初に述べられたお言葉がそれぞれ掲載されている。が、宮内庁関係者が明かすには、

「長引くコロナ禍を受け、両陛下、なかでも皇后さまの周囲からは『宮内庁のホームページにお言葉を載せても、誰もが見るわけではない。なぜお二人で映像メッセージを発信されないのか』などと、この期間のお振る舞いに疑問を抱く声も上がっています。むろん震災や水害とは異なり、国民の中へ分け入ることが難しい状況ではありますが……」

 前出の尾身副座長のご進講で陛下は、コロナウイルスを「人類にとって大きな試練」と表現し、「私たちが皆心を一つにして力を合わせ、難しい状況を乗り越えていくことを心から願っています」と語りかけられた。先の記者が振り返る。

「宮内庁は、陛下からこうしたお言葉が発せられるとは承知していなかった。事前にセッティングされていない“予定外”のことでしたが、陛下がこのお言葉を、副座長のみならず広く国民への『メッセージ』として発せられたのだと理解した宮内庁は、ご進講の途中でさっそく記者会にリリースし、その日のうちにニュースで流れたのです」

 とはいえ、その後の対応はいささか迷走気味だった。

「『ご発言』が宮内庁のホームページに掲載されたのは4月28日。時間がかかったのは、掲載すべきだと考える侍従らオクの職員と、難色を示すオモテ(長官以下の事務方)との間で、意思統一が図れなかったからです。何しろ、これまでご進講は原則的に非公開で、まして両陛下のご発言など紹介した前例はない。ビデオメッセージほどの大ごとではないにせよ、“陛下の発信”が政府を刺激することにならないかという懸念もあり、オモテの幹部は及び腰だったのです」(同)

 もっとも“ビデオメッセージを活用しては”といった意見は、当初から庁内で出ていたという。

「緊急事態宣言が発令された4月7日の前後、宮内庁では幹部らがビデオの活用の可能性を検討していました。ですがその後、感染が爆発的ではなく緩やかに長期化するとの見通しが立ったため、大々的な呼びかけではなく、折に触れて『お言葉』を発していくやり方がいいのではという方針に傾いた。これでビデオメッセージの案は、いったん立ち消えとなりました」(同)

 大震災とは異なり被害のピークが見えず、また打ちひしがれた被災者の心に寄り添うわけではなく、感染者であっても無症状のケースがあるなど、厄災の実態が掴めない中、こうした判断には一理あるだろう。その一方で、

「陛下は1985年、オックスフォード大学への留学を終えた際の会見で『国民の中へ入っていく皇室を実践したい』と述べ、その後もこのお考えを口にされています。皇太子として最後に臨んだ2019年のお誕生日会見でも『国民の中に入り、国民に少しでも寄り添うことを目指してきた。今後とも自分の活動の大きな柱として大切にしていきたい』と仰っていました」(同)

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