「松坂大輔」は“給料泥棒”なのか…“平成の怪物”のコスパをルーキー時代から全部分析

スポーツ 野球

  • ブックマーク

Advertisement

 14年ぶりに古巣・西武に復帰した松坂大輔。当初は3月22日の開幕第3戦の先発が予定されていたが、コロナ禍の影響で開幕が延期されると、右膝の不調などを理由に別メニュー調整となり、開幕直後の7月5日には、脊椎内視鏡頸椎手術を受けた。復帰までに2、3ヵ月かかるといわれ、9月で40歳になる年齢的不安も含めて、1軍のマウンドで復活をアピールできるかどうか微妙な状況だ。

 今季西武と年俸3000万円の1年契約を交わした松坂が、このまま0勝でシーズンを終えたら、ファンからの“給料泥棒”という批判は免れないだろう。松坂の野球人生を振り返ると、過去にはもっと高くついたシーズンもあり、意外にコスパが良かった年もある。ルーキー時代から現在までの松坂の年俸と成績を分析して、“コスパの変遷”を振り返ってみた(年俸はいずれも推定)。

 1999年、横浜高からドラフト1位で西武に入団した松坂は、いきなりリーグ最多勝の16勝5敗、防御率2.60の好成績で、新人王に輝いた。1年目の年俸は1300万円なので、1勝あたり約81万円。高卒ルーキーならではのコスパの良さで、これはもちろん過去20年間でダントツトップである。

 翌年もリーグトップの144奪三振と2年連続最多勝を記録。シドニー五輪出場の空白期間もあり、14勝7敗1セーブ、防御率3.97と前年よりやや成績がダウンも、1勝あたり500万円(年俸7000万円で14勝)。もう一人のエース・西口文也が1勝あたり約1055万円(年俸1億1600万円で11勝)なので、球団にとっても1年目同様、コスパはかなり良好だったと思われる。

 3年目の01年は、2年連続の最多奪三振、高卒投手では史上初の新人から3年連続最多勝のタイトルに加え、21世紀初の沢村賞も受賞。その一方で、リーグワーストの15敗を記録し、北川博敏と中村紀洋に一発を浴びて近鉄に逆転Vを許すなど、投球内容に不満も残った。それでも、1勝あたり約666万円(年俸1億円で15勝)は、西口の約964万円(1億3500万円で14勝)よりコスパが良かった。

 初めてコスパが悪化したのは、02年だ。入団後、チームは初のリーグ優勝を果たしたが、松坂は右肘故障などで長期離脱し、登板14試合で6勝2敗にとどまった。日本シリーズでも2本塁打でKOされるなど、巨人に4タテを食う一因となった。コスパも1勝あたり約2333万円(年俸1億4000万円で6勝)と、西口の約1166万円(1億7500万円で15勝)の2倍近くに跳ね上がった。西武の8年間で最も高くついたシーズンである。

 03年は自己最多タイの16勝を挙げ、前年の雪辱をはたすとともに、自身初の最優秀防御率(2.83)も獲得。1勝あたり約718万円(年俸1億1500万円で16勝)と、再び良コスパに戻る。

 04年はアテネ五輪出場で10勝止まりも、2年連続最優秀防御率(2.90)に輝き、レギュラーシーズンは2位ながら、プレーオフで日本シリーズに進出し、プロ入り後初の日本一に貢献した。1勝あたり2000万円(年俸2億円で10勝)は、先発、リリーフとフル回転したポストシーズンでの貢献度を考えると、まずまずのコスパと言えるだろう。

 その後、05年は1勝あたり約1785万円(年俸2億5000万円で14勝)、第1回WBCの優勝に貢献した06年は1勝あたり2200万円(年俸3億3000万円で15勝)と、絶対エースにふさわしいコスパも、2年連続V逸とチーム成績には反映されず、頭打ち感も出てきた。

 そして06年オフ、前年からメジャー挑戦を熱望していた松坂は、総額5200万ドル(約52億円)の6年契約で、レッドソックスにポスティング移籍する。

 メジャーリーガー・松坂は07年に15勝、08年に18勝を挙げ、期待どおりの活躍を見せる。だが、第2回WBCで侍ジャパンエースとして連覇に貢献した直後の09年シーズンに、WBCの疲労などから故障者リスト入りし、わずか4勝と急失速。翌10年に9勝を挙げたが、11年は3勝、12年も1勝と相次ぐ故障の影響で2年連続成績ダウン。

 最初の2年間で1勝あたり約5252万円だったコスパも、6年間トータルでは約1億400万円(約52億円で50勝)と高騰した。

 FAになった松坂は13年、インディアンスマイナーを経て、8月にメッツと10万ドル(約1000万円)で契約し、7試合で3勝3敗。格安年俸の結果、1勝あたり約333万円と、20年間で3番目のお買い得コスパだった。

 だが、年俸150万ドル(約1億5000万円)にアップした翌14年は、25試合中先発が9試合と起用法の不利もあり、3勝3敗1セーブ3ホールド。1勝あたりが約5000万円についた。

 シーズン後、再びFAになった松坂は、ソフトバンクと総額12億円の3年契約を結び、9年ぶりに日本球界復帰を果たすが、3年間故障に泣かされ、16年にリリーフで1イニング投げたのが唯一の1軍登板。2軍でも15年に2イニング打者8人に投げただけとあって、ソフトバンクは12億円のほとんどを空費する羽目に。1年平均4億円でも“最悪のコスパ”を記録した。

 自由契約になった松坂は18年、入団テストを経て中日と年俸1500万円で契約。6勝4敗と復活を遂げ、カムバック賞も受賞した。1勝あたり250万円は、西武1年目に次ぐコスパの良さである。

 だが、8000万円にアップした翌19年は登板2試合に終わり、0勝1敗、防御率16.88。帰国後、5年間で6勝という数字は、全盛期を知る者には寂しい限りだ。

 今季終盤での1軍復帰を目指す松坂だが、西武時代で最もコスパが悪かった02年の約2333万円の更新を阻止するためには、1勝あたり1500万円となる最低2勝が必要。こんな計算をすること自体、余計なお世話なのだが、松坂ファンも、「10月ごろに実戦復帰して、1軍で最低2勝は挙げてほしい」というのが、ほぼ現状に即した本音だろう。

「平成の怪物」は“給料泥棒”と批判されて現役を終えるか、それとも、もうひと花咲かせることができるか。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2019」上・下巻(野球文明叢書)

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月17日掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。