韓国のタマネギ男「チョ・グク」著書がベストセラー…野党から大統領選出馬か

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政権首脳の立場で、妻子名義で私募ファンドに投資

 今年7月にも連続殺人の冤罪が発覚した。1986年から5年間に渡って女性10人をレイプした後、殺害したという凶悪事件で、2003年に公開された映画「殺人の追憶」の題材にもなった。検察が起訴した男性は有罪判決を受けて20年間服役した後、2009年に仮釈放された。

 しかし、事件から30年以上経った昨年、最新の犯罪科学技術を用いて当時の証拠品からDNAを採取したところ、別件で服役中の受刑者が浮上。受刑者が容疑を認めて冤罪が判明した。当時、容疑をかけられた人の少なくとも4人が自殺している。

 文在寅大統領は市民生活の安心を守ると称して検察改革を掲げ、曺国氏を法務部長官に指名したが、この曺氏がまた曲者だった。

 文大統領が氏を法務部長官に指した直後から、メディアや野党が本人と家族の不正を取り上げ、疑惑が露呈しはじめた。

 曺国氏は民情首席に就任した直後の2017年7月、妻子の名義で私募ファンドに10億5000万ウォンを投資した。ファンドは出資者全員が曺前長官の身内だったことから「チョグク・ファンド」と呼ばれ、ファンドが投資した「ウェルズシーエヌティー」は大型公共事業を次々と受注した。

 曺氏の娘は疑惑の宝庫だ。高校3年の時、医学研究機関に2週間インターンとして勤務し、医学関連論文に名前を連ねた。その論文の功績から名門の高麗大学に入学したが、高校生が書くことができない専門的な内容で、コネを利用した不正入学の疑惑が持ち上がった。

 また、大学院進学の際に優位に働いた東洋大学総長の表彰状も、曺国氏の妻である鄭慶心(チョン・ギョンシム)東洋大教授が偽造したという疑いが露出した。

 娘はまた、釜山(プサン)大学医学専門大学院で2度も落第したにもかかわらず、奨学金を6回も受領、指導教授は大統領の主治医に選ばれた。ほかにも、曺氏の母親が理事長を務めている熊東(ウンドン)学園の債権・債務疑惑など、剥けば剥くほど疑惑が出てきた。

客観的であるはずの白書を謳いながら、自身の擁護に力を入れている

 文在寅大統領が曺国氏を法務長官に指名した直後から、一般入試に挑んだ学生を中心に長官の辞任を求める集会がはじまった。毎週末に行われた集会に野党や文政権反対派が呼応し、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の信奉者も朴槿恵(パク・クネ)前大統領の保釈と政界復帰を求めて参加した。

 韓国名物のデモは、文在寅大統領が朴前大統領の罷免を叫んだ「ろうそく集会」に匹敵する規模にまで拡大し、曺長官は辞任した。

 政府と与党は長官の辞任後も検察改革を推し進めた。検索改革の主な柱は、検察特捜部を縮小して、政府高官や裁判官、検察官などに対する捜査権や起訴権を新たに設置する「高官犯罪捜査庁」に移管するという政府高官を守る内容だ。

 検察特捜部は、退任した大統領の捜査に取り組んできた。1988年の第6共和国憲法施行以後、大統領は全員、退任後に検察の捜査を受けて本人や家族が逮捕・起訴されている。実際にこの捜査を担ってきたのが、文在寅大統領が事実上の解体を目論む特捜部なのである。

「チョ・グク白書」は、前長官の弁明で終始する。娘の入試問題疑惑は、韓国社会の階層構造と入試制度が問題だと転嫁している。

 また、私募ファンドも、財テクで投資に眼目がある親戚や知人の助けを借りるのは常識だなどと、責任は曺国一家ではなく、社会構造にあると主張する。

 客観的であるはずの白書を謳いながら、曺国一家の擁護に力を入れている。個人の不正の責任をマスコミの過剰報道と検察に転嫁し、他の高位層との比較を交えて曺一家の行為を正当化する内容になっているのだ。

 文在寅政権の支持率が就任以来最低となっている時期、なぜこの本を出版したのか。早期に事件を終わらせて、2年後の大統領戦に備えるのではという見方があるが。

カネをちらつかせれば、便乗する野党はあるかもしれない

 本の出版と前後して、文在寅大統領は青瓦台(大統領府)の首席秘書官5人を交代させた。政権への批判が高まるなか、片腕というべき首席秘書官の首をすげかえて批判をかわそうというものだ。

 文大統領は周囲の反対を押し切って、民情首席秘書官だった曺氏を法務部長官に任命し、支持率が下がると曺氏を切り捨てた。

 タマネギは切ると涙が出るが、皮を剥いても涙は出ない。文大統領が曺前長官を切った直後、政権支持率は急降下した。涙を飲んだことだろう。一方、罪状を1枚1枚剥がす検察が涙を流すことはない。

 出版にあたって、チョ・グク白書推進委員会は、支持者から3億ウォン(1円=0.09円)を集めたが、制作費はそこまで必要ない。前長官を擁護する支持者の間から「商売だ」という非難が上がり、当初の予定から5か月遅れの出版となった。

 タマネギを切って涙を流した文在寅大統領と与党が、曺国氏を次期大統領選挙に関わらせる可能性はほぼないだろう。

 一方、支援者から集めたカネとベストセラーで得たカネをちらつかせれば、便乗する野党はあるかもしれない。

 文政権の検察改革は、被疑者の人権保護で検察の召喚を公開から非公開に変更する内容を含んでいるが、最初に非公開の“恩恵”を受けたのは曺氏の妻だった。一方、検察特捜部の縮小は、施行日以後に着手される事件から適用されるため、曺氏が“恩恵”を受けることはない。

 最初に恩恵を受けるのは誰になるかはわからないが、現大統領に近い人物になることは間違いなさそうだ。

佐々木和義(ささき・かずよし)
広告プランナー兼ライター。商業写真・映像制作会社を経て広告会社に転職し、プランナー兼コピーライターとなる。韓国に進出する食品会社の立上げを請け負い、2009年に渡韓。日本企業のアイデンティティや日本文化を正しく伝える必要性を感じ、2012年、日系専門広告制作会社を設立し、現在に至る。日系企業の韓国ビジネスをサポートする傍ら日本人の視点でソウル市に改善提案を行っている。韓国ソウル市在住。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月16日掲載

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