「両利きの経営」で日本にイノベーションを起こせ――入山章栄(早稲田大学ビジネススクール教授)【佐藤優の頂上対決】

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 新しい着想やアイデアは、常に既存知と既存知の組み合せから生まれてくる。それが起点となってイノベーションが起こるが、日本の社会はここが決定的に弱く、成長を阻んでいる。では、どうすれば克服できるのか。気鋭の経営学者が語った日本企業への処方箋とこれからの経営。

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入山 佐藤さん、文化放送の番組にレギュラー出演されていますよね。

佐藤 野村邦丸さんの「くにまるジャパン 極(きわみ)」という番組で、第1、第3、第5週金曜日のコメンテーターをしています。

入山 私も文化放送の「浜松町Innovation Culture Cafe」という番組でパーソナリティを務めています。一緒にやっている砂山圭大郎アナから、佐藤さんはめちゃめちゃ気さくな方ですよ、と聞いて、本日をとても楽しみにしていました。

佐藤 砂山さんは、緊急事態宣言の時期に野村邦丸さんの代打をされていて、よくご一緒しました。入山先生は、その番組名にもあるように、学問としてイノベーションを研究されていますね。それが非常に面白そうだと思っていました。入山先生は慶應出身ですが、教えられているのは早稲田なんですね。

入山 慶應はいまだ純血主義みたいな雰囲気がありますが、早稲田は外から教員をかなり呼んできています。私が所属するビジネススクールは、商学部を中心とした商学学術院という組織の大学院の一つです。そこは、私のような博士号を取った教員は半分くらいで、あとは民間の方々を外から呼んできている。

佐藤 経営者の方々ですか。

入山 ビジネス界で有名な方ばかりです。看板教授は、ボストン・コンサルティング・グループの日本代表だった内田和成さんやマッキンゼー日本支社長だった平野正雄さんですね。

佐藤 早稲田は、外部から人を呼んで発展させていくことに適性のある学校です。一昔前は慶應にかなり水をあけられていましたが、ここ数年、後発の優位というか、とくに田中愛治総長になってから、どんどん充実してきた気がします。

入山 いまは慶應より早稲田のほうが面白いと思いますよ。同じ早稲田キャンパスの11号館に国際教養学部という学部がありますが、学生の半分くらいは外国人です。エレベーターに乗ると、ほぼ英語と中国語、たまに日本語という感じです。だからかなり変わってきています。

佐藤 それと違ってなかなか変われないのが、日本の会社です。経営学者として、日本の会社の現状をどうお考えですか。

入山 日本の会社にとって、いまはチャンスです。日本企業は明らかに生産性が低い。それを引き上げるにはデジタル化が必要ですが、これまでなかなかできませんでした。それがコロナによって、強制的にやらざるをえなくなった。

佐藤 リモートワークは広まりましたね。

入山 ええ、リモートワークにはデジタルが必要です。また、いま一番伸びている業種の一つが、SaaS(サース、Software as a Service)と呼ばれる、クラウドの仕組みを使って、企業にデジタル変革のためのアプリケーションを提供する会社です。この動きを見ても、いよいよ各社が本格的にデジタル変革を始めたことがわかります。

佐藤 追い詰められて、ようやくといった感じでしょう。

入山 働き方改革も始まっているので、ここで変わってくれないと、日本の企業はアウトだと思いますね。

佐藤 私が教えている同志社大学では、3月の時点でリモートで授業を行うことを決め、4月から始めました。

入山 それは早いですね。

佐藤 ちょうど学長の交代時期でしたが、新旧学長ともに同じ発想でした。でも関西の他の私大では、リモートにする前に、履修登録をやろうとしたらサーバーがダウンするなど、かなり混乱した学校がありましたね。

入山 関西の大学でも、いろいろと差がついてくればいいと思いますよ。

佐藤 リモートで授業してわかったのは、まず疲れることです。5時間の集中授業をやろうとしたのですが、3時間で止めました。私が体力的にもたないし、学生も無理でしたね。ただ効率はすごく上がります。15コマ分の授業が4コマくらいでできてしまう。それと学生の能力差がよくわかります。

入山 確かにわかるでしょうね。

佐藤 リモートだと、話している人の顔がクローズアップされます。だから発言しない学生は顔が前に出てこない。それにレポートで評価することも多くなるので、成果主義になっていきます。

入山 そこはものすごく大事なポイントです。日本の企業でもまったく同じことが起きています。リモートなので、いままでとりあえず会社に長くいて給料をもらっていた人の存在価値が問われてしまうんですね。昔は残業すれば偉いみたいな雰囲気があったわけですが、これを機に成果主義へ移行できる。

佐藤 余計な要素が目に入らなくなりますからね。

入山 コロナ騒動はワクチンができれば終わりますが、リモートワークは確実に日本の会社に残ります。これは一つの大きな変革で、できるサラリーマンとそうじゃないサラリーマンの優勝劣敗がはっきりする。

佐藤 それはいいことでしょう。

入山 はい、だから私はチャンスだと言ってきています。

佐藤 学生も、できる学生ほど、どんどん自分で勉強する領域を広げています。私が神学部の大学院で教えているのは3人ですが、二十数人いた中で残った学生ですから、とてもよくできる。

入山 かなり絞り込みましたね。

佐藤 一人は大学のフランス語は生温いと私費で語学学校に通い、また簿記も3級を取って、さらに工業簿記も必要だからと、いま2級を取ろうとしています。

入山 その学生は何になりたいのですか。

佐藤 商社員です。それもアフリカを担当したいと考えている。彼のリサーチだと、日本の商社は英語圏には入っているけれども、フランス語圏のアフリカは弱い。

入山 コートジボワールやセネガルなど西アフリカですね。

佐藤 他の2人はジャーナリスト志望と編集者志望です。いま神学部に来る学生の中には、もともと受験勉強をサボっていて、同級生が東大や京大、早慶に行くのに格好がつかない、だから芸大にでも行くというような感覚で来る人がいるんです。でも入ってしばらくすると、キリスト教をしっかりやっておけば、国際的に一級の知識が得られることに何人かが気がつきます。こういう学生が伸びていくんですよ。

入山 キリスト教をとば口に、国際的な一般教養が身につくわけですね。

佐藤 その通りです。

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