金正恩が腰を90度のお辞儀は史上初…戦勝記念日に見えた4つの「怪奇現象」

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ひとりで退場し、オットセイ拍手もなく

 これまで私の記憶にあるのは、錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を訪れて、金日成主席と金正日総書記の廟の前で腰を90度に曲げてお辞儀をしたときくらい。過去2度の老兵大会でも、これほどまで丁寧に接したことはありません。

 神にも等しい金正恩が、なぜこのようにお辞儀をしたのかは謎です。一方、当の老兵たちは感激した様子を見せてはいますが、大半は関心がありません。お辞儀をしてもらっても腹は膨れることなどないのです。慢性的な食糧不足に悩む中で、食糧配給でもしてほしいと思っていたことでしょう。

2.退場する金正恩に、いったい何が?

 映像の本当のハイライトは、金正恩が退場するシーンです。これまでは、崔竜海(チェ・リョンヘ)国務委員会第一副委員長や朴奉珠(パク・ボンジュ)党副委員長ら最側近が後ろに随伴してきましたが、今回はひとりで退場しています。

 カメラだけでなく、その場にいる全員が金正恩の一挙一動に注目していれば大問題になるはずなのに……。金正恩は退場しながら2度ほど振り返っていますが、誰も彼についてきません。死ねと言われれば命を投げ出す覚悟ができているはずの最側近らの行動は不可解ではありますが、かといって特に問責されそうな気配も感じませんでした。それもまた不思議ではあります。

3.不真面目に拍手する側近たちは全員死んだ

 北朝鮮には、「オットセイ拍手」という変わった拍手法があります。金正恩が姿を見せる行事では必ず行われるもので、腕を前に伸ばして拍手する様が、オットセイの“拍手”に似ていることから付けられた呼称です。

 しかしながら、この度の老兵大会ではオットセイ拍手をしている者は数人しか確認できませんでした。国家元首を敬う姿勢と綱紀が弛んでいるようにも見えます。

 もっとも拍手をしたくても、高齢のため無理な老兵もいたでしょうが、金正恩の威厳がこれほどまでに地に堕ちたのなら、独裁体制は長く続かない気がします。

4.玄松月(ヒョン・ソンウォル)は出世した

 この度の映像では、玄松月が金正恩と共に登場し、彼の椅子を引くなど、傍で世話を焼く姿を見せることで存在感をはっきりと示しました。金正恩の妹である金与正(32)は前列に座っているため、金正恩にカメラがフォーカスすると、玄松月が自然と映りこみます。

 玄松月はかつて、「歌の上手な歌手」に過ぎませんでした。金正日が生きている頃は名も知られぬ歌手でしたが、金正恩の後ろ盾を得て頭角を現すようになっています。その美貌と金正恩とのツーショットにより、李雪主(リ・ソルジュ、30)夫人の存在感が霞むほどです。

 玄松月の登場は金正恩が望んだことなのか、あるいは金与正の指図によるものかはわかりませんが、玄松月の名が北朝鮮の表舞台で、今後いっそう注目されるようになることでしょう。

 たとえフェイクであっても、北の最高権力者の最敬礼が国民にとって意味を持たない時代が来ているということではないでしょうか。国民が求めているのは他でもありません。新型コロナウイルス感染予防、1日3食をまかなえる米、そして、思い通りに商売ができる自由です。

金興光(キム・フンガン)
北朝鮮の平壌金策工業総合大学電子工学卒業後、咸興共産大学で博士号を取得。2003年に韓国へ脱北し、2006年には韓国政府内の統一部北朝鮮離脱住民後援会課長を経て現在、(社)NK知識人連帯の代表を務めながら韓国内で対北専門家としてTV、新聞、YouTubeなどで活躍中。http://www.youtube.com/c/NKtv3

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月3日掲載

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