熊本豪雨で球磨川「瀬戸石ダム」が決壊危機 現場証拠写真

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水圧でズレた道路

 ここで驚くべき事実を見つけた。ダム本体の上部にある管理用道路が水圧に耐えきれず、コンクリート接合部が十数センチもずれていたのだ。川へ落ちた鉄橋のようにダムが仮に決壊した場合、ダム下流の集落ではさらに急激な水位上昇が起こり、屋根に上って救助を待つ人たちが助からなかった可能性も考えられる。

 ダムを見下ろす高台の集落に暮らす住民の証言では「4日早朝、外が明るくなった際に外を見ると、すべてのゲートが全開になっていた。すでに管理用道路が水没し、管理棟も浸水していた」という。管理用道路より高い場所に流木などが引っかかっていることからも、ダムへ流入する水量がゲートでの放流能力を超え、オーバーフローを起こしていたのだ。さらに行き場を失った流れはダム本体の左右に分かれ、とくに右岸側へ流れが集中。激流とともに運ばれた大量の流木等が折り重なるようにダム脇の路上に堆積しており、強い圧力で押しつけられたためか、流失物はひとつの塊のように硬く締まっていた。

 ダム本体に隣接する変電施設や発電所で使う電気の予備発電施設も、フェンス等に残された洪水跡で1メートル以上浸水していたことを確認した。予備発電施設に不具合が生じた際に使う目的で今年3月に導入されたばかりの移動式発電装置にも洪水跡が残っており、このことからも建屋内で使う発電施設のバックアップは浸水を想定していなかったことがわかる。

 浸水した変電施設などを道路上から撮影していると、上流側からこちらへ向かってくる作業着姿のグループを見つけた。上流側の道路事情が知りたくて彼らの元へ向かうと、九州電力の関係者だった。建物被害がない住宅へ住民が避難先から戻れるように上流側から停電状況を歩きながら調査し、ダムまでは約1時間半ほどかかったという。アクセス事情や付近の被害状況についての情報を交換し、お互いの休憩を兼ねて雑談。ダム本体や周辺集落の停電状況を尋ねると、完全に不通状況で、発電所に電気が来ていないことを教えてくれた。

 予備発電施設が浸水し、外から給電が止まった瀬戸石ダムは現在、全電源喪失状態にあるといえる。全ゲートが開放されている現在、現場でやれることはほとんどないが、いまは監視業務すらもなされておらず、放置状況にある。

 増水ピーク前に全ゲートを全開にする操作が実施されたものの、今回の豪雨では放流量より流入量が上回っており、放流が追いつかずにいた事実を現場での検証で明らかになった。瀬戸石ダム自体が流れを妨げる構造物になっていたのである。

 記事を執筆している16日時点で、Jパワーから瀬戸石ダムが機能不全となった事実及び堰堤を越えるほどの流入量で決壊リスクがあったことの公式発表はされていない。八代市坂本町で被災した住民が発災後、人吉市にある電源開発の南九州電力所に瀬戸石ダムの状況を何度も問い合わせたが、やっと繋がったのは10日だったという。問い合わせた住民によると「ダム事務所で人的な被害がなく、現場機能が停止。現場に職員が辿りつけない状況であるため、現状が説明できない」というものだった。住民からの問い合わせ後、同日中に公式ウェブサイトに掲載されたのは『ダム情報テレホンサービスの電話回線が不通・ないしかかりにくいなどの不具合が続いております。(https://www.jpower.co.jp/oshirase/2020/07/oshirase200710.html)』という一文と問い合わせ先のみである。そこには住民らが知りたいダムの安全性や現在の状況についての情報は一切なく、オーバーフローがあった事実も公表されていない。さらに豪雨時、放流操作時にアナウンスされるサイレンや放流放送をダム下流で被災した住民で聞いた者はおらず、この件に関するアナウンスも現在までなされていない。放送設備が被災し、Jパワー独自での対策は難しいかもしれないが、被災住宅の片付けや溜まった泥を出すために現地での作業を続ける住民にとって、情報不足は安全上の観点からも早く改善すべき問題ではある。

 瀬戸石ダム下流に位置する八代市はダム決壊を想定しておらず、決壊時のハザードマップを作成していない。球磨川流域には今回の豪雨によって大量の土砂や流木が川沿いに堆積している。甚大な被害を与えた同規模の豪雨でなくても、それら堆積物が河川へ流入することで、災害が起こる危険性はより高まっており、瀬戸石ダムが次も持ち堪えられるとは限らない。

 瀬戸石ダムでの検証を終えたタイミングで、ひとりの地元男性と出会った。ダムの様子を見に来たという。男性による確かな情報では、発災後にJパワー職員が初めて現況を確認したのは13日だという。5日早朝に職員が国道を使って避難する姿が地元住民に目撃されているので、現況確認は避難から8日後のことである。瀬戸石ダムは発電という本来の目的を失い、住民に不安を与えながら今も存在している。

 週刊新潮編集部が県に瀬戸石ダムの状況について問い合わせたところ「県では状況を把握していない。Jパワーが管理しているので、そちらに聞いてほしい」(河川課)との返事だった。Jパワーが公式発表をしていないのは先述の通りである。ダムの決壊リスクは依然として高いままだが、そのことを知る県民がどれほどいるだろうか。

村山嘉昭(むらやま・よしあき)
写真家。川を日常の遊び場とする「川ガキ」の撮影をライフワークとする他、東日本大震災など災害取材多数。2017年より徳島市在住。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月17日掲載

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