文在寅政権下の思想警察化…批判する“壁新聞”を貼るだけで有罪判決の恐怖

国際 韓国・北朝鮮

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検察が独占してきた権限の一部が警察に委譲されて…

 中央日報のインタビューに応じた檀国大学の学生課の関係者は、「青年の起訴事実さえ知らなかった」と驚き、次のように話した。

「当大学は(外部の人の)出入りを制限していない。校門は開放されているので、建造物侵入というのは、法律の常識では到底理解できない。学校側の許諾を得ずに掲示された印刷物を発見すれば、それを剥がすまで。特に、(政治的主張を盛り込んだ)壁新聞はむやみに外したりはしない」

「彼がわが大学に損害を与えたわけではないのだから処罰を望む理由はない。我々はそのような大学ではない。我が大学は、外部の人が校内で壁新聞を貼ったことを処罰したことは一度もないのだ。 むしろ我々は第5共和国(全斗煥政権)時代に壁新聞を貼って、警察に追われた学生を保護してきた」

 この大学の関係者は裁判に出席しても、「表現の自由は守らなければいけない」「今回の事件で学生(青年)が被害を受けないことを望む」と、青年を積極的に擁護したという。

 事実、檀国大学だけではなく韓国の大学は外部の人にも校内を開放している。カギのかかっていない建物に入っただけなのに、学校側の許可を受けなかったという理由で青年を起訴し、有罪を言い渡した韓国警察と検察、そして裁判所の判決は納得し難い。

 では、彼らはなぜ、就職を控えた25歳の青年をあえて前科者にしなければならなかったのか。

 韓国メディアによると、この青年は「新・全大協」所属だ。「全大協」とは、過去の軍事独裁時代、民主化運動の中心軸だった大学生の連合体「全国大学生代表者協議会」の略である。

 かつての「全大協」は韓国でも大きな影響力を持ち、つい先日、韓国政府の統一部長官に内定した李仁栄(イ・インヨン)氏は全大協初代議長し、大統領外交安保特使に任命された任鍾ソク(イム・ジョンソク)氏も、第3代議長である。

 1980年代の暗鬱とした軍事独裁政権時代、彼らが各大学に貼ってまわった壁新聞は、政権に支配されていたメディアに代わって、独裁政権の悪行と弾圧を、学生はもちろん、一般の人々にまで知らせる重要な役割を果たしていた。

 かつての「全大協」にかわり、文在寅政権下で発足された新・全大協は、政治性向こそ過去の全大協と異なるが、自分たちの主張を壁新聞に載せて伝え、これを通じて、現政権を痛烈に批判しているという点では全大協と大差ない。異なる点といえば、21世紀の現代社会では、壁新聞の影響力はそれほど大きくなく、多くの国民に背を向けられているということであろう。それにもかかわらず、文在寅政府の警察は、壁新聞から指紋まで採取して新・全大協を血眼になって追い掛けているのである。

 2018年の末頃から大学に壁新聞が貼られるようになると、文在寅政権は激怒したという。与党の「共に民主党」を中心に、国家保安法や国家元首冒涜罪で処罰すべきだという意見もあったが、市民団体の援助を受けて発足した自称「ろうそく政権」では、それは不可能なことだった。そこで登場したのが「建造物侵入罪」での逮捕なのだろう。

 韓国の歴代大統領のほとんどは退任後に検察当局から東京地検特捜部も真っ青の苛烈な捜査を受け、惨めな末路を辿っている。文大統領はそれを回避すべく、検察改革を断行、骨抜きにしようと試みた。その司令塔となっていたのが、他ならぬ曺国(チョ・グク)法相だったが、自身や親族に関する疑惑が露見し、妻は逮捕・起訴、自身も在宅起訴された。

 その、文政権による検察改革の柱の一つこそが、検察が独占してきた捜査権や捜査終了権、起訴権といった権限の一部を警察に委譲するというものであった。権限の一部委譲は昨年暮れに国会を通過し、いまや警察はすっかり大統領のご機嫌取りをしている状況である。(その結果、“忖度捜査”とも呼べるような事件のでっち上げが横行するのであろう。

 民主化運動をまるで自分たちだけのもののように独占している文在寅大統領。その政権下で再び現れた壁新聞、そしてこれを取り締まろうとする警察。韓国社会は再び80年代に戻るのだろうか?

金昌成
韓国在住のジャーナリスト。韓国政財界や芸能界など幅広い分野で記事を執筆。来日経験も多く、日韓関係についても精力的に取材を行っている。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年7月8日掲載

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