「軍艦島」世界遺産登録に取消要求した韓国 個人攻撃された「女性センター長」が反論

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「韓国で親日は罪」

 韓国メディアは問題視したのは、在日韓国人2世で元島民だった鈴木文雄氏の証言がセンターで紹介されていることだ。朝鮮日報の記事も相当な行数を割いている。

《鈴木さんの発言は「端島炭鉱で働いていた伍長の父を誇らしく思う」との内容だ。そのパネルには鈴木さんが「いじめにあったことがあるか」「むちで打たれたことがあるか」との質問に対し、「いじめにあったことはなく、むしろかわいがられた」「むちで打つことなんてあり得るのか」と答えたとの記述がある。「当時朝鮮人と日本人は同じ日本なので差別はなかった。虐待もなかった」という日本人の証言もスクリーンから流れた》

 更に朝鮮日報は6月22日(日本語電子版)、「軍艦島歴史歪曲展示館、センター長は安倍首相の側近」と加藤氏を“個人攻撃”する記事も配信した。

《安倍首相や官邸の事情に詳しい日本側の消息筋は「安倍首相の最側近で『ポスト安倍』とも言われている加藤勝信厚生労働相の妻の姉である加藤康子氏が産業遺産情報センターの開館準備を総括し、センター長を引き受けた」と話す。この消息筋は「康子氏の父親は、安倍首相の父親・安倍晋太郎元外相と親しかった加藤六月元農林水産相で、今も家族ぐるみで行き来するほど親しい間柄だ」と言った。加藤六月氏は1980年代に安倍晋太郎氏が首相候補に取りざたされた時、安倍派「四天王」の一人と呼ばれた。別の消息筋は「安倍首相の母親と加藤康子センター長の母親は姉妹と言われるほど親しかった。安倍首相は加藤康子センター長を妹だと思っているという話もある」と語った》

《安倍首相の一族と2代にわたって親密な関係にある加藤康子センター長が事実上、全権を握っており、今後も展示内容の是正は難しいだろうとの見方がある》

 そこでデイリー新潮は、加藤康子氏に取材を申し込んだ。今の想いを、率直に語ってもらった。まず、康京和(カン・ギョンファ)外相(65)の書簡について訊いた。

「世界遺産に選出された8県の23施設のうち、1施設でも保全に問題があるとか、実際に毀損が見つかったという理由なら、登録の取り消しを求められても仕方がありません。しかし実情は異なり、韓国政府は政治的な理由から、取り消しを求める書簡を送ったわけです。産業遺産情報センターの展示に韓国政府の意に沿わない証言が含まれていたからといって、それで遺産の価値を全否定するというのは、あまりにも感情的な振る舞いと言わざるを得ません」

 加藤氏の知人で、世界遺産の登録に協力してくれた海外の専門家も、「韓国政府の行動には問題がある」と指摘しているという。

「一般公開を行う前に韓国の東京特派員の共同取材団にセンターを公開しました。その後、多くの韓国メディアのお問い合わせをいただいておりますが、皆さん開口一番、『犠牲者(の展示)はどこですか?』と訊かれます」(同・加藤氏)

 韓国人記者が最初に“カウンターパンチ”を繰り出してきたというのだ。そこで加藤氏は、きちんと反論することにしたという。

「日本は自由と民主主義を基本とし、表現の自由が保障されている国です。これからも新しい証言はどんどん出てきますし、おじいちゃんたちが語る当時の記憶には、気に入らない証言もあるでしょうが、ありのまま掲載し公開する予定です。強制の定義が何かということは人によって異なると思いますが、韓国では、『戦時中の端島で強制労働がなかった』という証言は、歴史的事実だとしても問題だとされるようですね』」

日韓関係を改善する道

 加藤氏たちは様々な資料を集め、130人以上から証言を再録した。その結果、端島炭鉱=軍艦島で「苛酷な条件下での強制労働」を示す証拠は全く見つからなかった。韓国メディアが問題視した鈴木氏の証言収録も、様々な紆余曲折があって実現したのだという。

「現在の韓国で“親日”は罪です。在日二世の鈴木さんはそのことを分かっていながら『どうしても真実を述べなければならない』という想いから、病を押して、私たちの調査に何度も協力してくださいました。息子さんは当初『今まで築いてきたものを全部失うかもしれないから、協力は辞めた方がいい』と鈴木さんを止めたそうです。息子さんの立場なら、仕方のないことでしょう。ところが鈴木さんはたくさんのメモを書いて記憶を整理し、病院で手術を受けられた後、わざわざ病院から出てきて証言をしてくれたのです。その後も、お亡くなりになる前、息子さんに「もっと伝えたいことがある」といって、亡くなられたそうです。その覚悟を、しっかり受け止めていきたいと思います」(同)

 加藤氏は「こう言うと誤解を招くかもしれませんが」と前置きした上で、「戦前、戦中、戦後を生きてきた在日韓国人の方々は、日本を愛している方が少なくありません」と言う。

「戦後、両国がボタンを掛け違ったこともあり、率直に言って、今の日韓関係は非常に悪化しています。何より問題なのは、日本人と韓国人の間に、精神的な距離が広がっていることでしょう」

 そして加藤氏は「産業遺産情報センターが活動を積み重ねれば積み重ねるほど、向き合うことで日韓関係は是正されていくと信じています」と断言する。

「戦中、戦後を共に生きた朝鮮半島出身者との絆について、様々な角度からの質問に答えた証言をアーカイブしたのは、日韓の歴史で初めてだと言っていいと思います。今後もセンターは証言の採取や、歴史的事実の研究を進めていきます。政治的歪曲を取り除き、両国の真の姿を描き出していくことで、真の日韓友好が実現されることを心から願っています」

週刊新潮WEB取材班

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