米国の警察官は過激集団の台頭に嫌気がさして退職者続出 カラー革命で社会は大混乱

国際 2020年6月30日掲載

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 黒人男性が白人警官に殺害された事件をきっかけに全米に広がった抗議デモは、1ヶ月が経っても鎮静化する気配を見せていない。むしろ事態は悪化している。

 その中で注目すべきは、6月11日、デモ参加者がワシントン州シアトル市の一角にある警察署を占拠し、「キャピトル・ヒル自治区」を発足させたと宣言したことである。

 一角の入り口地点には「これよりキャピトル・ヒル自治区」との看板が設置され、また現地の様子を報じたメディアによれば、「ノー・コップ・コープ(無警察組合)」という名の配給所で、食料が無償提供されているという(Yahoo!ニュース 個人:国際政治学者・六辻彰二氏の6月14日付記事より)。

 プロイセンとの戦争で疲弊したフランス・パリの労働者が、市街地にバリケードを築いて自治を宣言した、1871年のパリ・コミューンとの類似を指摘する見方もある。

「自治区」を宣言しているデモ隊は、公権力、特に警察に対する不信感を露わにしているが、本来、制度的には自らの安全を守ってくれる存在のはずである。にもかかわらず警察に対してここまで嫌悪感を示していることは、アメリカの民主制そのものにも強い不満を抱いている可能性があるのではないだろうか。

 抗議デモの主役はZ世代(1990年半ば以降に生まれた若者達)であると言われている(6月22日付日本経済新聞)。デモの引き金は人種問題だったが、根本には格差問題などへの強い不満が見て取れる。2008年の金融危機で酷い目に遭ったZ世代は社会の不正に極めて敏感だからだ。

 6月に民間調査会社が実施したアンケートによれば、「資本主義が社会のためになっている」と考えている米国人はわずか25%だった。新型コロナウイルスのパンデミックが米国の深刻な格差を顕在化させたことにより、資本主義の現状を疑問視する人が急激に増加していることの表れである。

 デモ参加者の多くは平和的に行動しているが、過激な行動に出る輩も混じっている。

 日本でも有名なのは、左派の過激な活動家グループである「アンティファ」である。トランプ大統領が名指ししたこのグループは、人種差別や極右の価値観などに猛然と抗議の意思を示し、自己防衛としての暴力的戦術を正当化しているところに特徴がある。

 アンティファに加えて極右の「ブーガルー」も抗議デモに参加していることが明らかになっている。ブーガルーは、新型コロナウイルス対策の都市封鎖(ロックダウン)に抗議するデモなどに重武装で現れることで知られるようになったが、「ブーガルー」という言葉はもともとインターネットゲームの愛好者の間で「暴動」や「内戦」を意味する俗語として使われてきた。その言葉が最近になって銃支持・反警察・反公権力を掲げる白人男性を中心としたグループによって「新たな市民戦争」という意味に転化させられたと言われている(6月23日付AFP)。ブーガルーも公権力への反感が強く、内戦による社会の転換を目指しているとされている。

 ブーガルー同士のつながりは主にソーシャルメディアを通じたものである。グループ同士の結束が緩やかで明確なリーダーが存在していないところはアンティファと同じである。

 シアトルの自治区にもアンティファやブーガルーのメンバーが参加しているが、「警察憎し」という点以外は「水と油」である。

 シアトルの自治区では当初治安が保たれていたが、20日以降、銃撃事件が相次いだ。事態を憂慮した市当局が強制排除の動きを見せたことから、自治区に立てこもっていたメンバーの多くは退去したが、一部のメンバーは「警察予算を半減させる」という要求が実現していないとして抗戦の構えを崩していない(6月25日付ZeroHedge)

 ワシントンでも22日、デモ隊が「ブラックハウス自治地区」を宣言するなど各地で同様の動きが広がり始めている。

 パンデミック対策としてのロックダウンが実施されている現状の不満のはけ口として、アンティファやブーガルーが急成長しているのだとしたら、米国社会の治安が今後急速に悪化してしまうのではないだろうか。

 このような情勢下で心配なのは、警察官達の使命感が急速に低下していることである。

 白人警官の手で多数の黒人が犠牲になっていることが糾弾されている一方で、その倍以上の白人が黒人の犯罪者に殺されていることはまったく話題にもならない。全米の暴力犯罪に占める黒人の割合は85%に上り、事件に巻き込まれて殺害される黒人の90%以上は黒人によって殺害されているにもかかわらずに、である。

 あまりに「忖度」が行き過ぎている社会の風潮に対して嫌気がさした警察官の退職の動きが全国で広がっている(6月13日付ZeroHedge)。

 米世論調査会社ラスムッセンが6月上旬に行ったアンケートによれば、34%の米国人が「5年以内に南北戦争が起きてしまう」と憂慮している。

「米国でカラー革命が起き始めており、社会は大混乱状態となる」と警告を発する論者もいる(6月22日付ZeroHedge)。カラー革命とは、2004年のウクライナのオレンジ革命に代表される中東欧などの旧共産圏諸国で起きた政権交代劇のことである。ウクライナでは米国政府の支援を受けたとされる過激な集団によって権威主義的な大統領が追放されたが、そのような事態が今度は米国で起きるのではないかという危機意識である。米国でのカラーはもちろんブラックである。

 格差が大きい社会では、エリート層は自らの正当性が危機に瀕していることに鈍感となる傾向が強いが、民衆の不満の高まりが社会崩壊の最大要因であるのは歴史の鉄則である。

 今後米国では大統領選挙運動が本格化するが、どちらの候補が勝ったとしても、分断化が進む米国社会を再び統合に向かわせることは至難の業ではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所上席研究員。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)、2016年より現職。

週刊新潮WEB取材班編集