発想の転換が必要…海外の研究結果から学ぶ新型コロナ「第2波対策」

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 政府は19日、新型コロナウイルス対策として自粛を要請していた都道府県をまたぐ移動を全面的に解除した。感染リスクが高いとされたライブハウスやナイトクラブの休業要請も同時に解除されたが、第2波への備えにも関心が高まっている。

 厚生労働省は16日、新型コロナウイルスに関する初の大規模な抗体検査の結果を発表した。検査は6月1日から7日にかけて、合計7950人を対象に実施された。欧米の2種類の試薬を用いてともに陽性となった場合のみ「抗体を持っている」と判断されたが、抗体を持っているということは、既に新型コロナウイルスに感染していることを意味する。

 その結果は、東京での抗体保有率は0.1%、大阪は0.17%、宮城は0.03%だった。5月31日時点の累積感染者数を基にした感染率が、東京は0.0388%、大阪0.022%、宮城0.004%であることから、実際の感染者数は報告されている人数の2.6~8.5倍に達することになり、PCR検査の陽性者数の数倍にあたる人々が感染に気づかないまま回復したことになる。

 注目すべきは、欧米に比べて抗体保有率が非常に低かったことである。

 大規模流行が起きた海外を見ると、スウェーデンのストックホルム市は7.3%、英ロンドン市は17.5%、米ニューヨーク市は19.9%だった。

 抗体保有率が低いということは、多くの人が免疫を獲得し感染が終息に向かう「集団免疫」の段階に達するまでの時間が長いとということになるので、日本での「第2波」は諸外国に比べて大きくなるのではないかと懸念されている。

 英誌エコノミストの調査部門は17日、経済協力開発機構(OECD)加盟21か国の新型コロナウイルスへの政策対応を指数化し、その結果を発表したが、日本は4点満点ので2.89点で順位は13位タイだった。人口規模に対する検査数の少なさが総合評価の足を引っ張った。

 このため日本ではこれまで以上に「PCR検査体制を拡充しろ」との声が高まっているが、はたしてそれだけでよいのだろうか。

 日本ではあまり知られていないが、海外ではこれまでにない独自の視点からの研究結果が報告され始めている。

 その結果をかいつまんで言えば、「新型コロナウイルスに感染しても重症化しない限り、体内に既に存在している免疫力で新型コロナウイルスを撃退できる。体内で新たな抗体が作られるのは症状が重い場合のみである」ということである(6月13日付ZeroHedge)。具体的に見てみよう。

 米国カリフォルニア州のラホヤ免疫学研究所が既存のコロナウイルスに感染した11人の血液サンプルを調べたところ、その半分の血液から新型コロナウイルスを退治できる能力を持つ「T細胞(白血球の一種)」が検出された。

 またスイス・チューリッヒの大学病院では、新型コロナウイルスから回復した人のうち約2割(165人のうち34人)しか抗体(IgG)が作られていなかったということが判明した。残り8割は既存の免疫機構で新型コロナウイルスを退治したと考えられている。

 米国とスイスの調査のサンプル数が少ないことから確定的なことは言えないが、新型コロナウイルスに関する従来の見方を変えるインパクトを持っているのではないだろうか。

 人間の免疫機構は様々な免疫細胞が連携して働いている。大括りにすれば、自然免疫(生まれながらに身体に備わった免疫機能)と獲得免疫(病原体に感染することによって後天的に得られる免疫機能)に分かれるが、新型コロナウイルスに対処できるのは獲得免疫の方である。獲得免疫も2種類あって、「抗体という武器をつくる」B細胞と「ウイルスなどの異物を撃退する」T細胞がある。

 治療薬やワクチンの開発などで注目されているのはB細胞の方であるが、前述の調査結果はこれまで光が当たってこなかったT細胞に関するものである。

 免疫機構の中核を成すと言えるT細胞だが、過半数の人たちが持っているT細胞は、他のコロナウイルスに感染した経験を生かして新型コロナウイルスにも対応できる可能性があることがわかったのである。

 一方でどのような人が重症化するのかもわかってきている。

 T細胞には、司令塔の役割を果たすヘルパーT細胞とウイルスを直接攻撃するキラーT細胞がある。ヘルパーT細胞が攻撃命令を出すとキラーT細胞は猛然とウイルスに襲いかかるが、しばしば暴走することがある。そうなると本来守るべき自らの細胞を傷つけてしまい、とても危険なことが起きる(サイトカインストーム)。

 英オクスフォード大学は16日、「ステロイド系のデキサメタゾンが人工呼吸器の必要な患者の死亡率を3分の1引き下げた」と発表したが、この薬は関節炎などの炎症を抑える。すなわち、体内の免疫機能を低下させる効果を有するものである。このことからわかるのは、サイトカインストームが新型コロナウイルス感染者の重症化をもたらす大きな要因の一つであることである。

 サイトカインストームの起こりやすさについては、遺伝的な違いがあることがわかっている。HLA(ヒト白血球抗原)遺伝子のことであるが、慶応大学や東京医科歯科大学などの研究チームは5月から、新型コロナウイルスの重症化について遺伝子レベルの解析作業を開始し、第2波の到来が予想される9月までに結論を出したいとしている。

 HLAは免疫の主役である白血球の型であるが、赤血球の型と異なり、150種類以上存在すると言われている。個人差の大きいHLA遺伝子がわかれば、発症後すぐに患者が重症化しやすいかどうか判断できる。

 第2波を恐れることなく経済活動を活発化させるためには、従来のPCRに加えてHLA遺伝子を迅速に解析できる体制を整備すべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所上席研究員。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)、2016年より現職。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月23日掲載

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