太宰治の命日「桜桃忌」にちなんで…他の近代作家と違って若いファンが多いのは?

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 太宰は他の作家と違って、時代を超えて読み継がれているとされている。その理由はどこにあるのか? 太宰の命日「桜桃忌」に絡み、実際に太宰の眠る三鷹のお寺を訪ねたライターの神田桂一氏が見たものは……。20代と思しきファンの群れだったのだ。

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ハマったのは『女生徒』を読んでから

 先日、芥川賞候補が発表され、太宰治の孫である石原燃さん(48)が選ばれ話題となった。太宰と言えば、この時期もうひとつの話題が、6月19日の命日である桜桃忌である。太宰が眠る東京・三鷹にある禅林寺には、全国から多くの太宰ファンが故人を偲んで訪れると聞くが、では実際どんな人々が訪れるのだろうと、疑問に思っていた僕は、実際に行ってみることにしたのである。

 僕は、大学生の頃、新潮文庫版の太宰治作品はすべて読んだ。青森の金木町にある太宰治の生家に社会人になってから足を運んだこともある。だが、近年熱が冷めて、めっきり読んでいなかった。そんな自分が、もう一度、太宰と向き合った時間の意味を考えるという思惑も今回の墓参にはあった。

 朝5時30分に起きた僕は、雨に打たれながら、駅まで歩き、中央線に揺られ三鷹に着いた。禅林寺は、三鷹駅からタクシーで約5分。周りには誰もいない。間違いなく1番乗りだと思っていたが、それもそのはず、開門は8時からだった……。出鼻をくじかれたかたちだが、気持ちを切り替えて、近くのコメダ珈琲で8時まで時間を潰す。そして、8時。気を取り直して、禅林寺に向かうと、人だかりがすでにできていた。しかも、20代と思われる人ばかりだ。カップルからひとりで来た人までバラエティ豊かな顔ぶれ。

 てくてく歩き、太宰の墓前に近づくと、皆さくらんぼを持っている。恒例の差し入れのようだ。墓の太宰治と彫られたくぼみに、挟むらしい。残念ながら、僕は何も知らないので、持ってきていなかった。すると、10代後半と思しき若い男性が、「よかったら」とひとつさくらんぼをくれた。僕は、ありがたく頂戴し、墓にそっと置いた。太宰ファンの静かなつながりを感じた出来事だった。他にもタバコや酒などがお供えされていた。

 ひとり佇んでいた女性に声をかけてみた。聞くと22歳だという。

「京都に住んでいたけど、太宰の近くにいたいと、今年三鷹に引っ越してきたんです。桜桃忌にはもう何度も来ています。太宰に最初にハマったのは、『女生徒』を読んでからです。太宰は男性なのに、女性の気持ちを描くのが、凄くうまいんですね。それですっと入り込めました。1番好きな作品は『グッド・バイ』です。よく、大人になったら読まなくなると言われますが、私はこれからも読み続けると思います」

 一人できている男性たちは、10代と思われる人たちが多かったが、どこか思いつめているようで熱狂的なファンだろうなと思わずにはいられなかった。

 小学生の子供を連れてきていたお母さんにも話を聞いてみた。

「最近三鷹に引っ越してきたんですけど、太宰のお墓があると聞いて、これは行ってみなきゃって。子供を連れて来てみたんです。作品自体は読みかじった程度ですけど、身近に感じられて、これからはもっと熱心に読んでみようと思います。子供にも読ませようと。実は、玉川入水の現場にもいってみたんですよ」

 謙遜しながら答えていたが、相当な太宰ファンと見た。

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