店員にブチ切れるおじいさん 理由を分析してみた(中川淳一郎)

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 この前、恥ずかしいおじいさんを目撃しちゃいました。なんであそこまで、人の善意を素直に受け取れないのかな、と驚きました。

 コロナ禍の中、外食チェーンでは回転寿司やファミレスが大打撃をくらった一方、牛丼、ハンバーガーなど、もともとテイクアウト対応をしていた業態は好調だったようです。フライドチキンのKFCは4月の既存店売上高が前年同月比33・1%増と絶好調でした。

 そんな報道を見たこともあり、私も、KFCの店舗に行ったんです。すると、隣のレジに年の頃78歳と見える細身のおじいさんが。

 普通は、商品を注文し、支払いが済んだら脇によけるでしょう。でも、おじいさんはカウンターに左肘をつけたまま、仏頂面で待ち続けます。見ていて「次の客が待ってるぞ」とソワソワしたものの、店員が彼の注文したものを用意していたので、“まぁいいか”と流しました。そして、ついに商品の手渡しタイムに。

 若い女性店員はおじいさんに「コールスローだけは別の袋にしましょうか」と聞きます。するとおじいさん、“号泣議員”野々村竜太郎氏のごとく耳に手をやり「へっ?」「はぁ?」「なに?」と店員に聞き続ける。

 3回目の返事でようやくおじいさんはその真意を理解したのでしょう。突然舌打ちをし、「なんでそんなものが必要なんだよ? アンタ、それ、大事なの? わざわざそんなこと聞くな!」とキレた。

 店員からすれば、熱々のチキン&ポテトと冷たいコールスローを一緒の袋に入れてしまったらお互いの良さを消し合うと思って親切心から言ったのでしょう。

 この時の店員の悲しそうな表情が、忘れられません。

 一方、おじいさんはよっぽど自尊心が傷つけられたのか、店を出ながらも「余計なことを聞きやがって。クソ」と、怒り心頭のようでした。

 何が彼の気に障ったのかモヤモヤしたので、彼に対して好意的な立場になりきったうえで、その理由を想像してみました。

(1)レジ袋を減らしたいと考えるエコな人だった

(2)「ファストフード」なのに余計な質問をして、「速さ」を重視していないことに苛立った

(3)注文する際、コールスローのことを「これ」と呼んでいたおじいさんは、店員が発する「コールスロー」の言葉の意味が取れなかった自分が恥ずかしくなって、つい店員に八つ当たりしてしまった

(4)彼はこの店の常連で、“この店は自分の嗜好は分かっている”と信じていたのに、裏切られた

(5)袋の中で熱いものと冷たいものが合わさった状態こそ自分は好きだった

 いずれにしても、いくら彼に好意的に解釈しても、「わざわざそんなこと聞くな!」と口調を荒くしたことについては店員が可哀想に思えます。恐らく(3)で当たりなのかな、と私は帰途、想像しました。自分のような年長者にも分からない言葉を年下が言ったら腹が立つものです。「キャベツのサラダ」だと思っていたものがまさかの別の名称扱い……。

 真実は分かりませんが、「エッセンシャルワーカー」たる店員さんたちに対しては丁寧に接するべきです。彼らがいなかったら食事にもありつけないのです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年6月18日号掲載

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