コロナ対策「専門家会議」はなぜ議事録を作らなかったのか 発言者への非難を懸念?

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 接触8割減を達成するために、北海道大学の西浦博教授も加わる政府の専門家会議は、密閉、密集、密接の「3密」を避けろと強く訴えかけてきた。だが、海外の感染症対策にも詳しい京都大学大学院医学研究科非常勤講師の村中璃子医師は、これまでの経験にもとづき、3密を見直すことも必要だと、こう指摘する。

「3密でも、満員電車やパチンコ店ではクラスターは発生していません。映画館なども同様で、発声を伴わない環境では、マスクを着用していればクラスターは起きにくいと考えられます。一方、マスクのしづらい風俗店や声を出すカラオケ店は、感染リスクが高いと考えられ、同じ3密でも分けて考えるべきです。居酒屋などの健全な飲み屋と風俗店をまとめて“夜の街”と呼び警鐘を鳴らすのは、問題の根本から目を背け、社会活動の再開を遅らせる原因となっています」

 専門家会議は5月29日にも、日本で感染拡大を抑えられた要因は、当初から3密に警鐘を鳴らしてきたことだと自画自賛したが、東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授は言う。

「黙っていて飛沫が飛ばない状態であれば、間近で会話や発声をする“密接”に当てはまらず、そもそも3密ではありません。厳密には、感染者が口から吐いた息にもウイルスがいると言われますが、それでもマスクをすれば、ウイルスが外に出る量は減りますから」

 だが現実には、密イコール危険だと、多くの国民が思ってしまっている。

 結局のところ、緊急事態宣言、接触8割減、3密回避と、専門家会議の提言をもとに進められてきた施策の多くは、本当に実行するに値するものであったのか今後の検証が必要だが、専門家会議は、発言者を明示した議事録を作っていなかったのである。

 加藤勝信厚労相は「自由かつ率直に意見してもらうため」だと語り、西村康稔経済再生相は「メンバーの総意として、名前を特定しない議事概要の形にしてほしいということだった」と説明したが、日本医科大特任教授の北村義浩医師は、

「新型コロナの世界的感染拡大は、1918年のスペイン風邪と比較されるように、100年に1度といわれる歴史的出来事。PCR検査ができて以降、これだけ多くの死者が出る感染症と対峙したのも初めてです。専門家会議でどのような発言がなされ、どんな議論が行われたのか、非常に貴重な記録で、発言者本人もAかBのどちらがいいか悩んでいる場面があっても、それ自体、未知の感染症に対し、どう悩みながら対策が検討されたのかを示す貴重な資料になります」

 という意見だ。さる専門家会議の関係者は、

「専門家会議では特定の業種の感染リスクが高い、低い、と意見を言い合うことがある。発言者名とともに議事録が公開されたら、特定の業界を批判した専門家が、その業界からの非難の矢面に立ち、危害が及ぶ可能性も否定できません」

 と漏らしたが、

「専門家会議に法的な責任は問えない、と政治が明言するなりし、対策を立ててでも公開すべきです」

 と北村医師。

批判を受け、今後は議事概要に発言者名を明記して公開するとのことだが、議事録自体は作るつもりがないとか。しかし、感染が広がって以降、国の政策を事実上動かし、社会経済活動を停止させてきたのは、15回を数える専門家会議である。その議事録がなくてよい理由がない。

 専門家会議の委員で、川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦氏は、

「私個人の考えとしては」

 と断ったうえで、

「議事録は作成したほうがよいと思っています。私は自分の発言には自分で責任をもちたいので、記名でも構いません。ただ、書き言葉は話し言葉とニュアンスが違うことがあるので、公表前に本人が確認する必要があると思いますが、公表自体は構いません。メールで議事録について意見を聞かれ、私は自分の考えを答えましたが、その後、こういう形に決まったと報告のメールがきました」

「メンバーの総意」ではなかったのだ。岡部氏は「決まったことには従う」と言うが、国民を縛り、多大なリスクにさらす提言が、気楽に行われてよい理由など、どこにもない。

週刊新潮 2020年6月18日号掲載

特集「コロナという不条理」より

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