吉川晃司が語る「探偵・由利麟太郎」撮影秘話 “寡黙な男”の役が多い理由とは

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 ミュージシャンで俳優としても活躍する吉川晃司(54)が、デイリー新潮の単独インタビューに応じ、6月16日にスタートする地上波連続ドラマの初主演作「探偵・由利麟太郎」(制作・カンテレ=フジテレビ系、火曜午後9時、5週連続特別ドラマ)の撮影秘話や緊急事態宣言下での生活、現在の思いなどを語った。デビュー36年目を迎えた熱い男の胸の内は――。

 吉川晃司にとって地上波連ドラの初主演作となるのが「探偵・由利麟太郎」。5週連続の特別ドラマとして放送される。

 原作者は名探偵の金田一耕助を生んだ日本ミステリー界の巨匠・横溝正史で、由利もやはり名探偵だ。

 ただし、金田一は髪の毛を掻きむしったり、事件現場を走り回ったりと「動」のイメージが強いものの、由利の場合は「静」。頭脳明晰で冷静沈着な男だ。また、ずっと在野の探偵だった金田一とは違い、由利は元警視庁捜査一課長。さらに犯罪心理学者でもある。

 もっとも、立ち向かう事件に怪奇色や耽美性があるところは2人とも一緒だ。金田一の事件の舞台は離島や辺境の地が大半だったが、由利は京都で起こる難事件を解決していく。

 由利の助手役を務めるのは、ミステリー作家志望の青年・三津木俊助(志尊淳、25)。由利の旧友で京都府警警部の等々力(田辺誠一、51)も一緒に事件に立ち向かう。初回のゲストは新川優愛(26)ら。由利宛てに殺人予告メールが届くところから物語は始まる。

 以下、吉川のインタビューだ。

――撮影終了は新型コロナ禍による緊急事態宣言が出る前の3月。満足のゆく撮影が出来ましたか?

「ギリギリ終わったんです。なんとか切り抜けたという感じでした。あと2、3日遅れていたら、撮り終えられなかった。当初、僕が京都の街で人混みの中を走り抜けるはずだったシーンは、ほとんど人がいなかった」

――すべてのドラマ撮影が4月上旬から5月末まで止まっていましたので、「名探偵・由利麟太郎」は緊急事態宣言明けで初の新作ドラマになります。

「期待してくれるのはありがたい。撮り終えていたのはラッキーだったと思うべきなのでしょう」

――全国ツアーの予定があったので、そもそも3月末までに撮影を終える予定だったとか?

「ええ。皮肉なことにツアーは全部、延期になりましたけどね」

――由利役を引き受けたのは、同じ横溝正史作品でも金田一とは違い、知る人ぞ知る存在なので、興味を持たれたのでは?

「そうですね。由利麟太郎という存在には惹かれました。それと、横溝さんのおどろおどろしい世界を、映画ではなく、ドラマでどう描くのかということにも興味がありました。制作陣が既成のドラマとは違った作品にしようとしていることも分かったので、余計に面白いと思いました」

――原作での由利は白髪の紳士で、ドラマの設定も同じです。地毛で演じたのですか?

「ええ、もちろん」

――由利は頭脳明晰で冷静沈着。ハマリ役ではないですか?

「ははは。僕はあんまり冷静沈着なタチではありませんよ。なので、撮影では由利のキャラクターに近づけようと努めたつもりです。それと、原作が書かれたのは終戦直後ですが、脚本では舞台を現代に置き換えたこともあって、由利の人物像も原作とは少し違います。監督らと話し合い、ウエスタンの香りが漂う男になりました」

――由利は学生時代に米国のロッキー山脈で出会ったハンターから学んだトレース(追跡)技術を用いて捜査をするそうですね。現場をひたすら観察し、ほんの僅かに浮かび上がる違和感を追跡し、真実を浮かび上がらせる?

「ええ。それでも横溝さんの作品らしさには満ちていて、過去のことなのか未来の話なのか分からない物語になっています」

――確かに初回の試写を見たところ、横溝作品の特徴である怪奇色や耽美性を感じました。時代性もおぼろげで、メールが登場するのに、由利は懐中時計を愛用し、車も1949年式のフォード。もちろんパワーステアリングではありませんし、オートマチック車でもないので、乗りにくくありませんでしたか?

「面白い車でしたよ。マニュアル車は普段から乗り慣れていますから。大柄な割に排気量が少ない(2158cc)車でしたけれどね」

――由利は寡黙な男です。吉川さんはこれまでにもNHKの大河ドラマ「八重の桜」(2013)で口数の少ない西郷隆盛を演じ、TBS「下町ロケット」(2015、2018)でも物静かな財前道生に扮しています。饒舌な役柄は好まない?

「寡黙な男に方向付けさせていただいている面はありますね。スティーブ・マックイーンさんは、説明ゼリフを極まりなく削ぎ落とし、口にしなかったそうですが、僕も説明ゼリフは出来る限り避けたい。小説は、一番言いたいことは行間に埋め込み、活字にしませんが、そういった演技が好きです」

――セリフの代わりに表情や仕草、背中で表現をしたい?

「ええ、それが理想。一般的に俳優さんは、西郷隆盛や財前道生のような口数の少ない役柄を好まないそうですけど、僕は逆にセリフをコンパクトにしてもらうことが多い」

――ミュージシャンの吉川さんが、あえて演じる理由は何ですか?

「根幹は音楽ですけど、近来、そこにさほどの区別はなくなってきていますね」

――メインテーマのインストゥルメンタル曲「Brave Arrow」と、吉川さん自身が歌うエンディングテーマ「焚き火」をともに作曲されました。主演ドラマの曲も手掛けるのはミュージシャンとして理想型?

「僕は当然そうあるべきだと思っています。ただし、どちらの曲の中にも吉川感は入れていないつもり。ドラマの邪魔はしたくなかったので。あくまで「探偵・由利麟太郎」に合わせて作った曲であり、ミュージシャン吉川晃司だとしたら作らない作品です。由利はウエスタンの香りがする男なので、カントリーウエスタン臭を出しました」

――「焚き火」は大半がスキャット(歌詞の代わりに声を楽器代わりに使う技法)で、歌詞は2行しかありませんね?

「ええ。曲に自己主張が強すぎると、ドラマとぶつかってしまいますから。BGMとしても成立するものがいいと思いました。登場する犯罪者や事件によって傷つけられた人の人間模様を増幅するためにもスキャットがいいと考えた。歌詞は核心の一言、二言でいいと思ったんです」

――由利は弓道をたしなみ、精神統一の際には弓を射ます。弓は初体験?

「いや、2年前にWOWOWで主演させてもらった時代劇『黒書院の六兵衛』のために、流鏑馬を習っていたんです。弓道とはちょっとだけ技法は違うんですけれど。流鏑馬は練習の機会が限られ、大怪我する確率も高いので、昨年の夏からは普段は弓をやってみようという事にしたところ、それを『探偵・由利麟太郎』の監督が知り、由利は弓の名手という設定になりました」

――吉川さんは修道高校(広島市)時代には世界ジュニア水球選手権大会の日本代表。運動神経抜群なので、弓もすぐに上達したのではありませんか?

「いや、むしろ撮影が3月末で終わり、世間が自粛に入った4月以降のほうがうまくなりましたよ。毎日、弓の練習をしていましたから(笑)。弓の練習は狭いスペースでも出来るんです」

――背筋を使う点では水球も弓道も同じではありませんか?

「これが違うんですよ。弓は体幹を使う。インナーマッスル(深層筋)でやるものなのかもしれません」

――緊急事態宣言下ではトレーニング中心の生活だったのですか?

「普段よりはやっていましたね。ギターの練習も通常よりしていました。先に繋げられることで出来ることは選択肢が少なかったですし、コンサートを再開する時に、これまでよりパワーアップしていないとカッコ悪いですから」

――新型コロナ禍はミュージシャンの方に多大な影響を与えましたが?

「仲間も直撃を受けました。自分の出来ることから、何かしていかなくてはならないと思っています」

――リモート形式のコンサートも行われていますが?

「僕としてはリモートで音楽を伝えるというのは、まだ違和感が拭い切れていなくて。僕の場合、コンサートが再開した時にとんでもないものを見せたいと思っています。僕のファンに対しては、申し訳ないけれど、それまで待っていてくれという思いが強い」

――やはり国難だった2011年の東日本大震災の後にはユニット「COMPLEX」を21年ぶりに復活させ、「日本一心」と銘打った復興支援ライブを行い、東京ドームに2日で10万人以上集めました。今回の国難でも動きたいのでは?

「ええ。ただし、東日本大震災の時に確信したのですが、エンターテインメントの出番は最低でも皆さんが安心して眠れるようになってからだと思うんです。今はあきらめる勇気が試されている気がします。もちろん、コンサートが出来る状況になったら、何かやりたいし、やらなくてはならないと思っています。しばし猶予をいただきたい」

■吉川晃司(きっかわ・こうじ)
1965年、広島県生まれ。1984年に映画「すかんぴんウォーク」に主演し、その主題歌「モニカ」で歌手デビュー。日本歌謡大賞最優秀新人賞のほか8つの新人賞を独占し、俳優としてもブルーリボン賞、日本アカデミー賞などの新人賞を受賞する。「LA VIE EN ROSE」「You GottaChance」などがヒットする中、1988年にギターリスト・布袋寅泰(58)とのユニット「COMPLEX」を結成。その後、ソロとして、作詞、作曲、プロデュースを全て自ら手掛ける。俳優としては映画「レディ・ジョーカー」(2004)。同「チーム・バチスタの栄光」(2008)、同「るろうに剣心」(2012)、同「さらば あぶない刑事」(2016年)などに出演。2010年の「必死剣鳥刺し」で第34回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞した。NHK大河ドラマ「八重の桜」やTBS「下町ロケット」、NHK大河ファンタジー「精霊の守り人」(2016年)などのドラマにも出演し、存在感を示す。2008年にはミュージカル「~SEMPO 日本のシンドラー杉原千畝物語~」に主演。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月16日掲載

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