早大のスクールカラー「えび茶」が誕生した背景には“野球”が関係していた!

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にっぽん野球事始――清水一利(18)

 現在、野球は日本でもっとも人気があり、もっとも盛んに行われているスポーツだ。上はプロ野球から下は小学生の草野球まで、さらには女子野球もあり、まさに老若男女、誰からも愛されているスポーツとなっている。それが野球である。21世紀のいま、野球こそが相撲や柔道に代わる日本の国技となったといっても決して過言ではないだろう。そんな野球は、いつどのようにして日本に伝わり、どんな道をたどっていまに至る進化を遂げてきたのだろうか? この連載では、明治以来からの“野球の進化”の歩みを紐解きながら、話を進めていく。今回は第18回目だ。

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 現在、早稲田のスクールカラーといえばエンジ、いわゆる、えび茶色となっているが、そのルーツが野球に関係していることはどうやら間違いなさそうだ。

 というのは、1905(明治38)年に早稲田の初となるアメリカ遠征に際して、新調したユニフォームは薄いベージュの地にえび茶色の「WASEDA」の文字をあしらったものだった。そして、このえび茶色が早稲田のコーチを務めたメリーフィールド氏の母校であるシカゴ大学のスクールカラーだったのだ。ただし、この当時、早稲田のスクールカラーは習慣上、赤とされており、えび茶色はまだ正式なスクールカラーとは認められていなかったという。

 一般的に、えび茶色が早稲田の色として定着したのは時代がかなり下った1927(昭和2)年のことだった。このころ早稲田では、明治以降引き続いて赤が便宜上のスクールカラーとされ、それ以外学部ごとに色が定められていたが、この年、早稲田のシンボルとなる大隈講堂が竣工した時、舞台につけられた緞帳の色がえび茶色だったことから、えび茶色がスクールカラーとして正式に採用されたという。

 また、このことに関しては当時の図書館長、市島謙吉が、「えび茶色が校色である。偶然シカゴ大学の校色と同一であるのも一奇だ。この色はマルーンというのだが、紅や白、紫など早稲田の各科の色を混ぜ合わせれば、このえび茶、すなわちマルーンの色になる」と日記に書いており、いずれにしてもシカゴ大学が関係していたことはこの言葉からも分かるだろう。

 これに対してライバル慶應のスクールカラーは紺(青)と赤とされ、塾旗は通称、三色旗と呼ばれているが、実際には色はこの2色で、それを3段に配している。記録によると、もともと明治時代の同校の校旗は赤と白の2色だったらしいが、白はすぐに汚れるということで浅黄色になり、その後いつしか今の紺と赤へ変わっていったというのが真相らしく、早稲田とは違い特に野球は関係なさそうだ。

 一方、スクールカラーと並んで学校のシンボルともいえるのが校歌だ。日本でもっとも有名な校歌といってもいい「早稲田大学校歌」は創立25周年にあたる1907(明治40)年に作られ、今も歌われている日本最古の校歌である。「都の西北」というタイトルだと思っている人も多いが、実はそうではなく、あくまでも「早稲田大学校歌」といのが正式な名称だ。

 また、慶應の塾歌は1903(明治36)年に作られたものを「早稲田大学校歌」が作られた後に作り替え、現在の塾歌は1941(昭和16)年にできたもの。現在の東京六大学でいうと校歌ができたのは明治=1920(大正9)年、立教=1925(大正14)年、法政=1930(昭和5)年で、唯一、東大にはいまだに校歌が存在しない。

 そもそも早稲田にふさわしい校歌を作ることを発案したのは文学科の講師だった作家・島村抱月である。抱月は師の坪内逍遥に相談、逍遥は海外の有名大学の校歌を集めて研究するとともに、「早稲田学報」1906(明治39)年10月号に「早稲田大学校歌募集」の広告を掲載して学生から歌詞を募集した。

 ところが、全部で23作の応募作があったものの、逍遥や抱月の気にいるものがなく、逍遥は「早稲田文学」の編集に携わっていた卒業生の相馬御風に作詞を依頼。10日後、御風は「都の西北~」で始まる歌詞を書き上げた。そして、講師の東儀鉄笛が作曲し、ここに「早稲田大学校歌」は完成した。

 ということは早稲田がアメリカ遠征をした際、「早稲田大学校歌」は、まだこの世には誕生していなかったことになる。そこで、野球部員たちは渡米に際して新橋駅に見送りに来た人たちと一緒に、児童文学者として名高い巌谷小波の作による「箱根山」の替え歌を歌って大いに士気を高めたのだという。

【つづく】

清水一利(しみず・かずとし)
1955年生まれ。フリーライター。PR会社勤務を経て、編集プロダクションを主宰。著書に「『東北のハワイ』は、なぜV字回復したのか スパリゾートハワイアンズの奇跡」(集英社新書)「SOS!500人を救え!~3.11石巻市立病院の5日間」(三一書房)など。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月13日掲載

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