テラハ「木村花」さんに捧ぐレクイエム、プロレスファンでもそうでなくても…

エンタメ 2020年5月31日掲載

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「プロレスって不完全な人が愛される場所というか、完璧じゃなくて足りない人の場所だから、私のように学校では受け入れられなかった人間でもありのままでいられるんです」――。22歳で亡くなった木村花さんは生前、雑誌のインタビューにそう語っていた。等身大の自分について話しているようで、強さと弱さが同居する人間の業のようなものもまた指摘されているように聞こえる。ファン歴40年の徳光正行が送る、稀代のヒールへのレクイエム。

ヒールへの温かさが集まるリング上

 齢48にしてプロレスファン歴40年の私ですが、数々の名勝負に感動したり、憧れのレスラーに心を奪われたり、プロレスファンで本当に良かったと思うことは多々ありました。

 しかしプロレスファンであったがゆえに、悲しい思いをしたこともありました。ブルーザー・ブロディの刺殺死、ジャンボ鶴田さんの肝臓移植手術失敗による死、そしてプライベートでも大変お世話になった三沢光晴さんのリング禍における非業の死。

 そのたびに打ちひしがれ涙しましたが、それは悲しみからくるものでした。しかし、今回流れた涙は、怒りと悔しさからきたものだと思います。リアリティー・ショーを謳う番組と一部心ない視聴者でありネットユーザーからの中傷の数々。それが木村花選手を追い詰めたのだとしたら……。改めまして深くお悔やみ申し上げます。

 プロレスファンの見地からしますと、木村花選手は誰にも代え難いほどの「華」がありました。試合会場で数回、テレビ中継では幾度となく彼女の試合を見てきましたが、入場曲がかかるだけでワクワクするような選手でした。

 入場ゲートからリングにゆっくりと歩を進め、ターゲットと決めた観客と視線を合わせ虜にして、いざ試合が始まると憎らしいまでのヒール(悪役)っぷりを発揮して観客のヒートを煽るのですが、決して反則技を繰り返すのではなく、流れるようなレスリングと荒々しい打撃で試合を作り上げるレスラーでした。

 試合に勝っても負けても、彼女のファンでもそうでなくても、観戦後には「木村花の試合はおもしろかった、見ることができて良かった」と思わせてくれる数少ない選手の1人。リング上で培ったヒール(=ファンサービス)精神と、それといくらか矛盾する純真な心を持った22歳の女の子としてオーディションに参加し、出演を果たしたのが恋愛リアリティー・ショー「テラスハウス」だったのです。

 初めこそ、派手な容姿とは裏腹に純粋で不器用な花選手を応援する視聴者も多かったのですが、いわゆる「コスチューム事件」をきっかけに反感を買い、人格や存在を否定するコメントなどを容赦なく浴びせられるようになりました。ヒールに対しても温かいブーイングや賞賛を送るプロレス会場のファンとは違って、「テラスハウス」の視聴者たちの辛辣極まりない書き込みに当惑し、疲弊していったのかもしれません。

「プロレスって不完全な人が愛される場所というか、完璧じゃなくて足りない人の場所だから、私のように学校では受け入れられなかった人間でもありのままでいられるんです」

 生前、彼女は雑誌のインタビューでこんな心境を語っていました。こういった心情はレスラー・木村花のみならずファンもまた抱いていたように感じます。プロレスファンの間では、ベビーフェイス(善玉)であるアントニオ猪木や長与千種のファンが敵役であるラッシャー木村やダンプ松本に嫌がらせをしたりすることもありました。しかし、いつの日からかプロレスは色んな人やものを受け入れてくれる懐の深い場所になっていったと思います。

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