コロナ禍の告白 実はノンケだった『薔薇族』伊藤文学編集長ロングインタビュー

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『薔薇族』を万引きした高校生の悲劇

――『薔薇族』30年の歴史には紆余曲折も。2004年には1度目の休刊を経験する。

 原因は、インターネットの普及で文通欄の需要が低くなったことだと思う。他にもコンビニが雑誌置くようになっちゃった影響も大きい。『薔薇族』の読者にとって、こういう雑誌を買いやすいのは、お客の顔もろくに確認しないような路地裏の本屋さん。『薔薇族』の多くの読者は、たった何秒の間でも『薔薇族』を持ってるのを見られるのが嫌なんだ。

 でも、コンビニの影響で、そんな路地裏の本屋が次々とつぶれてしまってね。読者が『薔薇族』を最初に買った時の話をまとめたら、本当、1冊の本になるくらい。みんな涙ぐましい努力をして買ったんだよ。

 例えば高校生で、電車の車窓から線路脇に捨てられた『薔薇族』が落ちていたのを見つけて、夜、ペンチを持って金網を破って持ち帰ったとかね。後は自衛隊員が、山の中で演習やってた時に束になって捨ててあったのを見つけて、1冊持ち帰ったとかね。

 悲劇的な出来事もあってね。九州の高校生がデパートの本屋さんで『薔薇族』を万引きしちゃって、親を呼ばれちゃったの。万引きしたっていうことよりも、『薔薇族』だということを親に知られた事がショックだったんだろうね。その高校生はトイレに行かせてくれって言って、屋上のフェンスを乗り越えて自殺しちゃった。

 たまたまその書店に勤めていた男の店員さんが読者でね。事件のあった日は、お姉さんが結婚したから手伝いに行って、仕事を休んでたらしいんだけど、「自分がその場にいたなら、他の雑誌と取り替えて警備員室に連れて行ったのに」と悔やんで手紙をくれたんだ。

――2011年、伊藤は『薔薇族』編集長の職を正式に退くことに。3度の休刊と4度の復刊を経て伊藤の『薔薇族』は幕を下ろすことになったのだ。

『薔薇族』はなくなってしまったけど、今でもブログはやっているんだよ。もちろんパソコンなんて使えないから、原稿用紙に手書きした原稿を郵送すると、僕のファンがボランティアで打ち込んでくれるんだ。同性愛の事を一般の人に理解してもらおうと、これまで本を出したり雑誌を作ったりしてきたんだけど、やっぱり1つの偏見を変えるのには、100年、200年という時間がかかる。だから僕が生きているうちは、ブログを書き続けて同性愛についての偏見をなくしたいと思っているんだ。

 今は僕もコロナで自粛してるけど、ブログの読者さんと定期的に集まって下北沢のカフェ「織部」で「文ちゃんと語る会」をやっているんだよ。そこに若い女性なんかが来ると、僕は嬉しくなっちゃう。もちろんもうセックスできないし、下心は無いよ。でも僕は昔から女性の胸の谷間が好きでね。最近は行ってないけど、コロナが落ち着いたら、またストリップショーも見に行きたいなんて考えているんだ。

週刊新潮WEB取材班

2020年5月23日掲載

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