コロナ禍で「自殺者27万人増」の驚愕シミュレーション 補償なき安倍政権の見殺しで

国内 社会 週刊新潮 2020年5月21日号掲載

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自粛により崩壊しつつある経済と社会

 これによって感染の拡大が抑制されている可能性はもちろんあるのだが、自粛によるさまざまな弊害の深刻さが、日に日に明らかになってきている。既に連日報道されているように、自宅に閉じ込められた人々のストレスは増大してDVや虐待が激化、大半の国民の所得は縮小し、仕事を失う人々も増大、そして収入が激減した多くの店舗や法人の廃業、倒産が相次いでいる。

 もちろん、政府が欧米諸国のように、店舗・法人に補償金を潤沢に支給するなら失業や倒産は最小限に食い止められるだろうが、我が国中央政府の対応はほぼ皆無だ。つまり今の安倍内閣は「自粛してください。でも補償はしません」という途轍もなく冷徹な態度に徹しているのである。結果、最後の頼みの綱である政府からも見捨てられた多くの国民は今、急速に明日への希望を失い始めた。挙げ句に空腹に耐えきれず犯罪に走りだす国民、さらには自殺する国民が今、にわかに増え始めた。

 事実、ゴールドマン・サックスは、安倍内閣が4月時点で決定した緊急経済対策を織り込んでもなお、4―6月期の実質GDPは前期比で年率25%下落すると予測。これは、国民1人あたり1年で111万円もの所得を喪失する速度の経済悪化であることを意味している。

 こうなれば確実に凄まじい失業率の増加を招くことは必至だ。

 そもそも「8割おじさん」西浦教授は、対策を何もしなければという(現実的にはあり得ない)前提で、感染死は数十万人に至るから8割自粛が必要だと主張したのだが、今度はその8割自粛のせいで自殺者数が増加することが懸念されるわけだ。だから、適切な政策方針を考えるには、自殺者の増加についての見通しを持つことも必要となる。ついては筆者は、当方がユニット長を務める京都大学レジリエンス実践ユニットにて、計量経済学の手法を用いて2020年度以降の自殺者数の推移についてのシミュレーションを行うこととした(推計方法の詳細はグラフを参照されたい)。

 結果、実質GDPが2020年度において14・2%下落し、失業率はピーク時で6・0%~8・4%に到達し、累計自殺者数は約14万人~27万人増加するという結果となった。本当かと疑うだろう。私も驚いた。

 詳しくこの結果を見ていこう。

 グラフが、このたび推計された自殺者数の推移だ。まず、2019年まで振り返る。ご覧のように、1997年までは自殺者数は年間2万人程度で推移していた。しかし1997年の消費増税によって日本はデフレ不況に突入し、その結果、倒産、失業が一気に拡大、自殺者数は1万人も急増して3万人を上回る水準に至った。その後日本はデフレから一向に脱却できず、自殺者数は高止まり。ただし(失業率が下落し始めた)2010年頃から徐々に自殺者数は減り、最近では再び2万人程度の水準に戻っていた。つまり、1997年増税によるデフレ不況で、日本は約20年間も自殺者が増えていたのである。結果、20年間で約40万人となるはずの自殺者が、トータルでそれより実に約14万人も増えたのだった。

 一方、今回のコロナ不況で、上記のように実質成長率は実にマイナス14・2%に至り、その煽りを受けて失業率は6・0~8・4%に至ると予想された。これは、緊急事態宣言が出されたという状況を踏まえ、かつ、消費税は10%に据え置かれる前提での値だ。そしてコロナ収束後に経済が平常状況に戻っても、今のデフレが常態化した日本では年率1%未満の成長しかできず、コロナ不況前の状況に戻るのに楽観シナリオで19年、悲観シナリオでは27年もかかる。これは、一旦大きく落ち込んだ経済が、ここ約20年間の平均成長率に基づいてゆっくりと回復していくと想定した結果推計された年限だ。そしてその間に自殺者の増加数が少なくとも19年間で14万人、最悪では27年間で27万人に上るという結果になったのである(計算の詳細はグラフを参照されたい)。つまり、累計自殺者の増加数は、1997年増税によるそれと同程度、あるいは、その2倍程度の水準に至ると予期されたのである。

自粛から自制へ~半自粛のススメ~

 以上のシミュレーションは、西浦教授が示した「最悪の感染死者数」なるものに匹敵する水準の自殺者数が、彼が提案した「8割減」によってもたらされる可能性を示しているのだが、筆者はここで、信憑性の視点から言うなら、実証データに基づく我々の計算は西浦氏のそれを圧倒しているという点を強調しておきたい。

 そもそも西浦教授が準拠する「2・5」という基本再生産数(1人の感染者が感染させる人数)は、WHOの示す「上限値」なのだが、これは今の日本には明らかに高すぎる。そもそも、西浦教授が8割減を言い出した4月上旬、既にほとんどの国民が手洗い、マスク着用を励行し、宴会やイベントはほぼ自粛されており、基本再生産数が「上限値」である可能性は万に一つもない状況であった。しかも彼のシミュレーションでは本来は「6割」だったのだが、歓楽街での感染は止められないとの彼の主観的な見込みで、それに(一切の定量的根拠も無いままに)2割を水増しして8割にしたという。しかし、緊急事態宣言下の歓楽街の諸店舗はほとんど休業していたのであり、その意味でも8割は明らかに過剰だったのだ。つまり彼が主張する「8割」という数字には一切何の根拠もなかったのである。

 しかも「接触を減らせ」と西浦教授は言うが、別に「接触しても感染させない事」は可能だ。我々京大ユニットではそうした視点から、ウイルス学が専門の宮沢孝幸京大准教授と共にその感染メカニズムを徹底的に踏まえつつ、社会心理学・行動心理学の視点も加味した上で最も効果的効率的な「感染防止策」として手洗い・マスクに加えて(1)目鼻口を触らない(2)換気の徹底(3)会食時の会話に気をつける(だから当面は宴会自粛)、という三つに配慮する「だけ」で十分だと提案している。こうすれば、これ以上過剰な自粛を続ける必要はない。「自粛」の水準を一定程度緩めつつ、外出時にしっかりと「自制」する、そうした「半自粛/半自制」の取り組みによって、社会経済活動を一定再開させつつ感染拡大を防ぐことができるのである。

 いずれにせよ、我々社会工学・社会心理学・リスクマネジメントの研究者からすれば、西浦教授の「接触機会8割減」は経済や社会に対する配慮が圧倒的に不足している。そもそもゴキブリ一匹を退治する為に家全体を燃やすような愚は避けねばならない。殺虫剤で事足りる筈だ。これからあらゆる都市・地域で検討が始まっている「出口戦略」において、この京大ユニット提案を是非、参照頂きたいと思う。

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