コロナ禍の時効停止を 死亡ひき逃げ事件の時効撤廃を求める遺族の叫び

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 新型コロナウイルスが猛威を奮う中、忘れてはならないのは未解決事件の存在だ。警察官らが懸命に治安を守っているのはわかるが、警察官らの感染が全国各地で相次ぎ、移動自粛も続く中で捜査のマンパワーが落ちている点は否めない。現場では、緊急性の高い身柄拘束事件等が優先され、公訴時効が差し迫っていない未解決事件の捜査は停滞しているのが現状のようだ。約11年前、最愛の一人息子を死亡ひき逃げ事件で失った埼玉県熊谷市の小関代里子(こせき・よりこ)さんはこう訴える。「緊急事態宣言中は適正な捜査ができないと思うので、長い目で見たら時効を停止すべき。時効についてもっと考えてほしい」。

ひき逃げは人を死傷させる重大な「交通犯罪」

 そもそも、刑事の公訴時効はなぜ存在するのか。理由としては、「長い年月が経過し、証拠が散逸して立証が困難になる恐れが強い」「長期間の逃亡生活で犯人に事実上の社会制裁がなされている」などが挙げられるが、遺族感情への配慮や近年のDNA鑑定技術の進歩などを背景に、改正刑事訴訟法が施行された 2010年4月以降、殺人罪や強盗殺人罪など人を死亡させた罪のうち、最高刑が死刑となる罪では時効が廃止された。

 こうした中、2009年9月に埼玉県熊谷市で小学4年生の小関孝徳(たかのり)君(当時10歳)が死亡した未解決ひき逃げ事件を巡り、母親の代里子さんは昨年6月から、「死亡ひき逃げ事故の時効撤廃を切実に求めます!!逃げ得が許されない社会になってほしい!!」と題し、死亡ひき逃げ事件の時効撤廃を求めるインターネット上の署名活動(http://chng.it/TF9FSH8fjj)を始めた。

 活動では、殺人罪などは時効が撤廃される一方で、交通事故で人が死亡した場合、道路交通法の救護義務違反(ひき逃げ)の時効は7年、自動車運転死傷行為処罰法の過失運転致死罪の時効は10年にすぎない点に言及。殺人と同様に人の命を奪う「交通犯罪」になぜ時効が残っているのかについて異議を唱え、社会に対して問題提起している。さらに、ブログ更新や各地でのチラシ配布などの活動も展開し、孝徳君の事件解決を祈る傍ら、死亡ひき逃げ事件の時効撤廃を訴え続けている。

 実は、代里子さんのこうした切実な訴えは、過去に警察を大きく動かしたことがある。孝徳君の事件は未解決のまま、ひき逃げの時効が2016年に成立、自動車運転死傷行為処罰法の過失運転致死罪の時効10年も2019年9月30日に迎えるところだった。しかし埼玉県警は、過失運転致死罪の時効成立間近の段階で、罪名を時効が20年で法定刑も重い「危険運転致死罪」に切り替えて捜査を継続するという異例の判断をくだしたのだ。

 危険運転致死罪は、「アルコール又は薬物の影響により走行中に正常な運転に死傷が生じる恐れがある状態で運転」などを立証する必要があるため構成要件のハードルが高く、未解決のひき逃げ事件で罪名が変更され、危険運転致死罪が適用されるのは前代未聞となった。代里子さんは、死亡ひき逃げ事件の時効撤廃を訴える一方、孝徳君の事件では、「ひき逃げ事件の発生段階で過失か危険運転によるか原因は不明」として危険運転致死罪への罪名変更も主張し続けていたため、埼玉県警は遺族感情も踏まえる形で「英断」を下した形となった。

代里子さんは、死亡ひき逃げ事件は「早期の法改正による時効撤廃」を訴えながらも、「孝徳の事件での埼玉県警の判断が『異例』とならないよう、他のひき逃げ事件でも同様の判断が広がるべきだ」と主張する。

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