名球会、野手は47人なのに投手は16人、ピッチャーの入会条件が厳しすぎやしないか

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 新型コロナウイルスの影響でいまだ開幕の見通しが立たないプロ野球。開幕の延期は、選手の個人記録にも影響をもたらしている。巨人の坂本勇人は、1968年に榎本喜八(当時東京)が達成した最年少2000安打(31歳7カ月16日)の記録を塗り替える可能性があったが、7月に同年齢に達するため、更新は事実上不可能となった。

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 日本のプロ野球では、野手が通算2000安打、投手は通算200勝、あるいは通算250セーブを記録すれば、名球会入りの資格が与えられる。名球会は任意団体で、入会資格を満たしても、希望しなければ参加を拒否することができるが、超一流選手の証として一般的にも名誉ある記録とされている。

 名球会の入会資格はMLBと合わせた日米合算記録でも認められているが、その場合は「NPBでの記録をスタート地点とする」という規定がある。現在の名球会会員は63人で投手が16人、野手が47人と、野手の方が3倍近く多い人数となっている。

 現役選手を見ると、野手では坂本の他にも、西武の栗山巧が残り175本で、あと2年レギュラークラスで現役を続けられれば2000安打に到達する可能性が高い。最近10年を遡ってみても、10、14、19年を除く全ての年で17人もの名球会入り選手が誕生している。

 その一方で投手は、最近10年間では10年に岩瀬仁紀(当時中日)が通算250セーブ、16年に黒田博樹(当時広島)が日米通算200勝を達成したのみで、名球会入りしたのはわずか2人。今季、開幕すれば達成の可能性がありそうな選手は、現在243セーブの藤川球児と、日本のみで234セーブを記録しているサファテの2人の救援投手ぐらいだ。

 先発投手では、日米通算174勝の田中将大(ヤンキース)が名球会にもっとも近い存在で、その下が石川雅規(ヤクルト)が日本通算171勝。岩隈久志(巨人)と松坂大輔(西武)がいずれも日米通算170勝となっているが、年齢や近年の成績を考慮すると、この2人の達成は厳しい状況だ。

 現状では、野手は今後も名球会会員が増えそうだが、投手の場合は条件的にかなり険しい道となっている。特に日本球界のみで200勝を達成する先発投手は、もう現れないのではないかという声も多い。

 現役時代に広島で先発、リリーフとして通算707試合に登板し、148勝100敗138セーブを記録した大野豊氏が、投手の名球会入りの難しさを解説する。

「昔に比べてシーズンの試合数が増え、打席数も増えた上に、選手寿命も延びて長い年数レギュラーを維持できる選手が多くなったことで、2000安打は大変な数字ではあるが、達成できる可能性は高くなっている。坂本のように、これからも日本だけの数字で名球会入りする選手もいると思う。逆に投手は分業制が浸透し、先発投手は中6日の登板が基本で、完投数も減っている。年間の登板数も、近年は30試合に達する選手が皆無に近い。さらに言えば、高いレベルで、何年も続けて安定した成績を残せる選手が少なくなっている。200勝となると単純計算でも20勝を10年やってようやく到達する数字だが、現在では20勝投手は稀少な存在であり、投手の方が厳しい状態になっていることは間違いない」

 ならば通算250セーブの方が可能性は高そうだが、試合数の増加だけでなく、バットやボールなど道具の質が上がって有利になっている野手とは違い、投手にはそういったメリットが乏しい、とデータ系に強いスポーツライターが指摘する。

「リリーフなら、年間70試合以上を記録するピッチャーもいますが、現状では実績を残している投手でも、3年か4年もフル回転で活躍すると、疲労が蓄積され、故障も多くなる。岩瀬のような投手は例外中の例外と言え、トータルでも10年以上に渡って高い成績を残せる救援投手は、本当に稀と言えるでしょう。また、それだけの成績を残せる投手なら、近年の傾向ではほぼ100パーセントと言っていいぐらい、米球界を目指すことになる。DeNAの山崎康晃は5年間で163セーブをマークしており、250セーブは現実的な数字ですが、彼もメジャー志向が強く、おそらく最終的な数字は日米通算のものになることでしょう。ましてや先発投手となると、現状で国内200勝を期待するとしたら、ヤクルトの石川になんとか頑張ってもらうしかない、というのが現実だと思います」

 1978年に金田正一氏らが中心となって設立された名球会だが、野手の入会資格が通算2000安打で一貫しているのに対して、投手は従来からの通算200勝に加えて、2003年から通算250セーブという入会資格の拡張が行われている(同年に日米通算の概念も追加)。投手の分業化とメジャー移籍する選手が増えたことが理由だったが、その傾向がさらに強まり、入会規定が投手にとっては以前よりもはるかに高い壁となっている現在、入会資格にさらなる拡張の可能性はないのか。

 大野氏の148勝138セーブも入会資格に十分な数字と思えなくもないが、本人は「中途半端な数字だし、名球会については正直あまり考えたことがない」と否定しつつ、今後についても話してくれた。

「僕のことはともかくとして、客観的に見ても100勝100セーブというのは、歴代で10人もいない大記録ではある。一昨年には上原(浩治)が日米通算で100勝100セーブ100ホールドを達成し、特例で入会資格になるのではないかと議論もされていた。ただ、今後のことを考えると、権威という意味を考えても、200勝を180勝にしたり、新たな規定を加えるということは、なかなか難しい気もする。名球会を設立した人たちや、入会している選手からすれば、安易に規定を変えたくないという気持ちもあるはずなので、現在の数字は変わらないと思う」

 名球会は連盟による表彰記録とは異なるものである。過去には落合博満など、名球会入りを辞退した選手も存在する。それでも野球界の将来、その存在価値を考えても、新たな基準を導入する余地はある、と大野氏は言う。

「名球会というのは、沢村賞のように選考委員によって決まるものではなく、厳密に数字を残せば資格が与えられるというのが、基準も明確でいい部分だと思う。そういう意味でも、簡単には達成できない数字を設定した上で、積み重ねていった数字を吟味しながら、基準を変えたりする余地もあるはず。特例を作るのはよくないことかもしれないが、これからプロの世界で頑張っていく若い投手たちの励みになるのであれば、ホールド数なども含めて、新しい基準を制定する意義はあるのではないか」

 エンゼルスの大谷翔平のように、投手と野手の二刀流で高い数字を残す可能性のある選手が出現するなど、時代とともに進化を続けているプロ野球。山本浩二氏が理事長となった近年では、「超難関」になりつつある投手の入会条件を登板試合数やイニングを加味して緩和する動きもある。

 入会が決まった際に贈られる、通称「グリーン・ジャケット」と呼ばれるブレザーに対しての憧れが、現在の選手にあるのかどうかはわからないが、名球会という響きはプロ野球ファンにとっても大きな権威であり続けていることは間違いない。

週刊新潮WEB取材班

2020年5月15日掲載

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